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「智駿さん、写真、写真!」 「どうするの、写真なんてとって」 「ブログにのせまーす! 地元で可愛いケーキ屋さん発見!って」 「ふうん」  智駿さんにお仕置きされてしまった数日後。ふらっと智駿さんのお店を訪れた俺の目に、衝撃的な光景が飛び込んでくる。  なんと、楓がいた。楓は智駿さんの隣に立ってツーショットを撮ろうとしている。何が起こっているんだ、と俺が入り口で呆然と立ち尽くしていると、俺に気付いた楓が、ニコッと笑いかけてきた。 「梓乃のかれぴっぴ! 素敵な人だね!」 「……なにやってんの、楓」 「リサーチでーす! 梓乃のハートを射止めるために梓乃の好きな人がどんな人かなって調べにきたの」 「……帰りなさい」 「やだよ~。せっかくケーキ屋さんに来たのに何も買わないで帰るなんて」 「業務妨害!」 「だから~、ちゃんとケーキ買うってば! おすすめはどれ? 全部可愛くて選べない」  なんという強メンタル。こんなに堂々と元彼の今の恋人に会いにいく奴がいるだろうか。いやここにいる。  俺は、楓に最近食べた中で一番好きだったケーキを勧めてやった。そうすると楓は素直にそれを買って、にこにこと笑っている。  楓は、いい子なんだ、本当に。恋愛観が合わないだけで、本当にいい子。それをわかっているから、彼女の好意を避けるのを申し訳なく感じてしまうけれど、俺は智駿さん以外の人のことは考えられない。 「そういえば、最近どこかの国で、同性婚が認められたみたいですね! そこに行って結婚するんですか?」 「んー? それができたらいいけどね。僕はここにずっと住んでいたいし」 「じゃあ、結婚はしないんです?」 「結婚はね。でもずっと付き合っていたいなあ」 「結婚しないなら私にもチャンスありますね!」 「ないよ」  目の前で、俺を巡っての修羅場が起こっている。なんでこんな、アニメのヒロインみたいな扱いを俺は受けているんだろう。私のために争わないで!とでも言えばいいのだろうか。ゆるゆるとした二人の火花に、俺は戸惑うしかない。 「えー!? 私、絶対に大スターになるし、梓乃のこと誘惑しきってみせますよ!」 「梓乃くんの誘惑なら僕も負けないよ」 「私のほうが可愛いもんー!」 「……」  平和だなあ、なんて思った俺は、疲れているのかもしれない。とりあえず、楓は要注意人物だ、と俺は頭の中でメモをした。

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