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「ああ……席替え嫌だ……!」  高二の春。新しいクラス、新しい友達。そんなきらきらとした雰囲気に包まれていたこの教室が、僕は嫌だった。僕は、どちらかといえばおとなしい方。友達はいるけれど、うるさいのは嫌いだから、教室の隅でひっそりと過ごすタイプ。今は出席番号順で席が決まっていて、たまたま気の合う静かな男子がそばにいたから、穏やかに過ごせていた。    けれど。 「ぶっちゃけ、派手な人たちと仲良くなる自信がない」 「バスケ部とかね」 「バスケ部はもー……無理だ。いい人たちなんだけど、僕には、無理」  いつまでも出席番号順の席ではつまらないだろう、と担任が席替えをするなんて言い出した。僕の平穏は、脅かされたわけだ。  そして。    くじ引きで決めた席替えの結果。僕の隣にきたのが……「こいつらだけは嫌だランキング」1位のバスケ部の男子。終わった。僕の平穏は幕を閉じた……そう、思った。  けれど。 「えっと、由弦くんだよね。よろしく」 「……えっ!?」 「あ、俺、梓乃だよ。いや、由弦くんが隣の席で良かった。俺、頭あんまりよくないから、色々助けてね」  僕の隣にきたバスケ部の男子・織間梓乃は、僕の苦手なタイプとは異なっていた。  バスケ部といえば、サッカー部といい勝負のチャラ男揃いの部活(という僕のイメージ)だ。だから、そんなバスケ部に所属している梓乃くんに、僕は苦手意識を持っていた。ただ、梓乃くん単体をみてみれば、彼はチャラ男という印象は受けない。話し方なんかも、どちらかといば静かな方。 「そういえば俺、由弦くんの作品、みたよ」 「えっ、ど、どこで!?」 「1階の壁に飾ってあった。すっごいなあ、あんなの俺描けない」  梓乃くんは、結構独特な雰囲気を持っていた。よく笑うし、人当たりが良い。でも、馬鹿騒ぎするということがなくて、男子たちと一緒にはしゃいではいるものの、よくよくみれば自身は馬鹿なことをしていない。纏っている雰囲気は、どちからといえば女性的。もちろん女々しいなんてことはないが、仕草などがおっとりとしていた。  あまり、騒ぐことが好きではないタイプのようだった。それでも、彼からでている癒しのオーラか何かは、人を惹き付けていた。常に、梓乃くんの周りには人がいた。 「俺さ、思うんだよね。絵を描く人の目に、世界はどう見えているのかなあって」 「そんなこと、考えているの?」 「うん。ねえねえ、由弦くんに今日の空の色はどうみえてるの?」 「どうって……青かな」 「あれ? 普通だね。赤とかいってくるのかと思った」 「そんなわけないだろ……」  僕も、そんな梓乃くんに惹きつけられた人間の一人だ。話してみて、あっという間に心を奪われた。話していると、心がぽかぽかする。くすくすと控えめな笑い方は可愛らしくて、ついまじまじと見てしまう。  隣の席になってからは、よく話すようになった。梓乃くんとは会話のテンポが合って、特別面白い話をしていなくても会話を交わしているだけで楽しかった。  そわなわけで、僕たちの仲は急速に縮まっていったのだった。

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