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「……そんなわけだ」 「そんなわけだ!?」  由弦から思い出話を聞かされて、俺の頭は混乱する。だいぶ、彼のなかの俺が美化されているような気がする。高校生の俺はきらきらもしていないし女性的でもない、ただのめんどくさがりだ。自分のペースを乱されるのが嫌で、適当に人と距離を置く。楽しそうなら混ざるし気が乗らなければ一人でぼーっとしている。大抵眠いから、話し方がちょっと緩くなるし動きものそっとしているのかもしれない、だからそこが女性的とか言われているのかも。 「由弦さあ、俺ってけっこうアホだしそんなに美化しているとあとで幻滅するよ?」 「美化もなにも……梓乃くんがきらきらしているのは事実だし」 「してないから! みろよこのもっさり具合を!」 「ふんわりしているところもまたイイよね」 「……」  ……由弦は、俺に遠慮しているところがある。思い出話を聞いてわかったけれど、由弦は俺のことをそれはもう美化してしまくって見ている。だからモデルになって欲しいとか思うし、深いところまで付き合おうとしないのかもしれない。  俺は由弦のことを友達だと思っているから、そうやって好意的ではあっても距離を取られると寂しい。良く言ってくれるのは嬉しいけれど、微妙な気持ちだ。 「由弦、まずはさ、もうちょっと俺を見て? モデルはそれからにしよう」 「みてるよ」 「そうじゃくて、素の俺っていうか……あんまり外面の俺ばっかりみていると、俺をモデルに絵を描くのが辛くなってくるかも」 「……うーん、見るっていっても……僕はちゃんと梓乃くんをみているけれどなあ」  ……どうしたものかなあ。  絵を描くときの由弦はすごいから、俺を描いているうちに美化している由弦の頭の中の俺と、現実の俺との違いに気付くと思う。だから、このまま絵を描かせるのには抵抗があった。 「あれっ、梓乃ちゃんと……由弦くん、だっけ?」  どうしようかなあと悩んでいるところに、後ろから声をかけてくる人がいた。振り向けばそこには、彰人が。彰人と由弦はお互いが「俺の友達」という認識でいるから顔見知り程度。普段よりも若干のよそよそしさを醸し出しながらも、彰人も近づいてきた。 「ナニ話してんの~混ぜて!」 「……珍しい」 「そう? ひまぽよだからさ~!」  彰人はチャラチャラしているようで冷めているところがあって、あまり仲良くない人にぐいぐいといくタイプではない。でも今日はどうやら気分がいいのか、俺たちの中に入ってきた。 「彰人くんって梓乃くんと仲がいいんだよね?」 「そうだよ~。いつも一緒にいる」 「え~、じゃあ、「素の梓乃くん」っていうのも知ってる?」 「素の梓乃ちゃん?」  由弦が、さっそく彰人にそんなことを聞いていた。  なるほど、俺本人に聞くよりも、俺と近しい人に聞いた方がいいかもしれない。彰人、はっきり俺の素を由弦に教えてやってくれー、と心の中で念じてみれば、彰人はにこっと笑う。 「え、こいつ見た目以上に超エロいよ!」 「……あ!?」  のろのろしてるよ、とか、頭悪いよ、とか、そういうことを言ってくれるのを期待していた。けれど、彰人が言い出したのはとんでもないことだ。俺は飛びかかるようにして、彰人の口を塞ぐ。 「ちょっ……あ、彰人!」 「んーっ、よいしょっ! だから、梓乃ちゃんめっちゃくちゃエッチなんだってば!」 「待ってー!」  特別隠してはいない。けれど、同性と付き合っていてさらに抱かれる側、なんてことを高校からの友達が突然知ったらどう思うだろう。ちょっと距離を感じてしまうのではないだろうか。へらへらと笑う彰人に殺意を覚えながら、恐る恐る由弦の顔を伺いみてみれば……由弦はあっけらかんとして笑っている。 「そりゃあ年頃の男の子だしね、梓乃くんも。エッチふなこと考えるよね」 「……! そ、そう! 仕方ないんだよ! エロいこと考えるよ俺だって!」  そうだ、余計なことを言わなければ、俺はエロいのが好きなだけな健全な男子だ。とんだ変態になるのは癪だけれど、このまま押し通した方がめんどうなことにならない。そう思って俺は由弦の言葉に大きく頷いてみせる。 そうすれば由弦はなんとも言えない表情。じっと俺をみつめて、真顔で言う。 「……エッチな梓乃くんか……でも正直想像つかない」  そりゃあ高校時代とかもそんなに下ネタ言うほうじゃなかったし、そう頭の中で突っ込むけれど、由弦の謎の気迫に圧されて言葉を発せない。俺が黙っていれば、由弦はふうと息をついて、肩を掴んでくる。 「ちょっと梓乃くん、エッチなところ教えてくれない!?」 「は?」

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