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「あ、梓乃くん! 昨日はほんとありがとね!」  次の日、学校で由弦に会うと、彼はへこへことしながら話しかけてきた。ほんとうに、絵を描くときの彼は別人で、昨日の彼に俺はビビっていたから、いつもの様子の彼をみて俺はホッとする。 「あの絵、写真で撮るとまた違ってみえるでしょ?」 「……恥ずかしいから送ってこなくて よかったよ」 「え~? 消した?」 「いや……由弦の絵だし、一応保存はしているけど恥ずかしい」  昨日、由弦がわざわざあのやたらエロい俺の絵を送ってきたせいで、大変なことになった。それを由弦に言うつもりはないけれど、本当に、あの絵が俺のスマホにはいっているのは色々と問題だ。  全く悪気のない由弦に、ハッキリと言うわけにもいかなくて、ぼそぼそと俺が言うと、なぜか由弦はキラキラと目を輝かせる。 「保存してくれた? ほんと?」 「う、うん、まあ……」 「うわー、梓乃くんの手元に僕の絵があるって感動するなぁ」  由弦は俺が彼の描いた絵を持っていることが嬉しい、らしい。でも……それは、今更なような気がする。 「えっ、ていうか由弦に貰った絵、全部持ってるよ? 高校のときに貰ったらくがきとか、全部」 「……え?」 「今回のエロ絵は置いておいて、全部大切な絵だし」  俺は、由弦に貰った絵は、全部家にとっておいてある。初めてもらった、休み時間に俺の手元を描いてもらったあの絵から、全て。  大事なものだから、それはあたりまえだと思っていた。けれど……由弦はひどく驚いたように目を見開いて、そして、かあっと顔を赤らめてうつむいてしまう。 「……え、それ、本当?」 「え、うん、もちろん」 「なっ、なんで」 「いや、友達に貰ったもの大事にするの、当たり前じゃん」 「……、」  由弦は一瞬固まったのちに、破顔した。表情筋を崩れさせるようにふにゃっと笑って、俺にぎゅっと抱きついてくる。 「――梓乃くん、好きっ」 「えっ!?」  突然の抱擁に、俺は戸惑った。でも……なんだか由弦が可愛らしかったから、抱きしめ返してやった。

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