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「え? 梓乃ちゃんが悩み? 何? 明日雪でも降る?」 「織間さん困ってるんですか? 新作バイブ安くします?」  相談する相手を確実に間違えた、俺は一瞬でそれを悟った。「もう20歳なのに夢がない自分がなんだか嫌だ」と彰人と結城に言ってみれば、驚いたような目でみられる。奴らは俺を悩みなんて持たないゆるふわ男子とでも思っていたらしい。  心外だ、と俺がむっとしてみせれば、二人はへらへらと笑い出した。 「むしろ大学生で夢を持っている人のほうが少ないんじゃない? 俺らみたいな総合大学の生徒とか、特に」 「……でも、彰人はテレビ局はいりたいってちゃんとした夢持ってるじゃん……」 「そりゃあ俺はたまたまテレビ局に勤めている人に会ったから。きっかけなんていつくるかわからないんだし、梓乃ちゃんも今からそんな風に悩む必要なんてないと思うけど」  彰人がパックのジュースをすすりながら、軽い調子で話しだす。  ……言っていることは、確かにそのとおりだ。でも、俺になにかきっかけが来ることなんて想像がつかない。きっかけを探すために色んな活動に参加したいなんて思うほど、俺は積極的ではないし。まあ、積極的じゃないなんてことを言い訳にして何もしない俺が、「きっかけがないから夢も見つけられない」と愚痴るのはお門違いなわけだけど。 「もういいじゃないですか、織間さん。織間さんは専業主婦で」 「はい?」  俺が唸っていれば、結城がわけのわからないことを行ってくる。二度見してやったが、冗談で言ったわけでもなさそうで。 「……専業主夫?」 「専業主婦! 彼氏さんいるんでしょ? 彼氏さんを温かくサポートしてあげましょうよ!」 「子供もいないのに働かないで家にいるの?」  そりゃあ、女性でいうところの専業主婦には憧れる。家族のために色々がんばるって、素敵なことだ。でも、男同士でそれはないだろ……と冷静に考える。智駿さんが働いているのに俺は働かないで、子供もいない家のどこを守るというんだ。  やっぱり働かないと。ちゃんと夢を持って働かないと……。 「いやでもいいじゃないですか。専業主婦が素敵っていうか、「専業主婦が夢」っていうの素敵だな~って俺は思いますよ。好きな人と結婚するのがその人にとっての夢ってことでしょ?」 「別に結婚しないし……」  彰人と結城は俺の相談に真面目に乗る気があるのかないのか。彼らの言葉はたしかに意見の一つだし、なるほどと思うところもある。けれど。  たぶん、俺自身が迷っているから、どの意見にもうなずけないんだろうな。そう思う。彼らなりに助言はしてくれているのに、俺は余計に迷路に迷い込んでしまったのだった。

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