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「……俺はもう寝たいです、セラくん」
「寝てていいよ~、梓乃くん」
「い、いや……あのですね」
家に帰って、二人で別々にシャワーを浴びて。寝る場所は残念ながら俺の部屋で、二人一緒。気分が落ちていた俺は、そうそうに寝てしまおうとベッドに横になった。のに。だ。
「……放してください」
セラがぎゅーっと苦しいくらいに俺に抱き着いてきている。苦しい、っていうか智駿さん以外の人に抱き着かれるのは抵抗がある。けれど押しのけようとしてもなかなか離れてくれない。
「は、放して~! だからセラと一緒はいやなんだ~!」
「いいじゃん~、ずーっと白柳さんとエッチしてなくて欲求不満なんだってば!」
「えっ白柳さんとガチで付き合ってんの!?」
「付き合ってないよ~」
「……なんなんだ」
ふんっ、と思い切り押してやれば、ようやく離れてくれた。ぽてっと布団にねっころがって、恨めしそうにセラが俺を見つめてくる。いや、そんな目で見つめられても。
そんなことはどうでもいい。俺は、セラと白柳さんがどうなっているのかが非常に気になった。恋バナ大好き女の子なんてわけじゃないけれど、俺と同じ同性同士のカップル(未確定)というところとか、あの白柳さんがセラといったいどんなことをしているのか、というところとか。
「時々白柳さんの家に押しかけて、エッチする」
「白柳さんと!? ヤるの!?」
「『はあ~めんどくさい、一発ヤったら帰ってくれんの?』って言いながら抱いてくれるよ!」
「セラはそれでいいの!?」
「なんだかんだキスしてくれるから俺はそれでいいの」
ふふ、と嬉しそうに笑うセラの気持ちが、わからない。
それって所謂セフレってやつですよね……? 好きな人(セラの好きの基準はわからないけれど)とセフレってそれでいいのだろうか。というか俺にはそんな適当なお付き合いは理解できない。……いや、今の俺には。将来のことでものすごく悩んでいる今、そういった適当なことをやっているセラにどうしても共感できなかった。人それぞれだ、なんてことはわかっているんだけど。
「……セラって将来のこと、何か考えているの? なんかその日暮らしって感じがするけど……」
だから、聞いてみた。セラって、何を考えているんだろう。俺とほとんど歳も変わらないセラが、こういった生き方をしていて何を考えているのか、俺は気になってしまった。
聞いてみれば、セラはきょとんとした顔で俺を見つめてくる。そして、うーんと唸ったかと思えばにこっと笑って、言ったのだ。
「なーんにも考えてない! 今が楽しければいいんだ~俺!」
……だろうな。
俺はがくりと肩の力を抜いた。別にセラの職業をどう思っているとかそうではなくて、あんまり自分のことを大切に思っていなそうなところとかが、そう思わせたのだ。だって、セフレって。自分を愛してくれる見込みのない人と、快楽だけを分かち合うって。なんか、辛いなって俺は思う。愛されることだけが人の幸せとは限らないし、気持ちいいことが好きっていうのもわかるけれど……なんだか、空っぽな感じがしたから。
「……セラはそれでいいの? 将来のこと、考えていないの? このままでいても、セラが幸せになれるとは思えないんだけど……」
「えっ、なに? 梓乃くんどうしたの? そんなに深く将来のこと考えるような人だっけ? エッチ大好き~!って人じゃなかった?」
「なっ、ち、違うから! 俺だってちゃんと考えるときは考えるんです!」
「ほお~。で、将来のこと……ね~。俺が? そうだなあ」
セラが俺を見つめて、目をちらりと細める。猫のような瞳は色っぽいけれど、その瞳の奥にあるものを思うと魅力的には思えない。虚しさが、漂っていそうな気がして。
「別に今やりたいことやっていれば、将来幸せになれると思うんだよね。今やれることをやるべし、だよ! セックスは若いうちにいっぱいしたいな」
「……」
「未来が、未来が、って先ばっかりみていると、目の前にある大切なものを取りこぼすかもしれないよ~、なんてね」
けらけらと笑うセラ。セラのいうことは……わかるけど。わかる、けど。俺は、今の自分のことすら、わからない。
「……俺はセラと違って、セックスが楽しいとかそういうものもないし……何をするのが楽しいとか、そういうの明確にないというか。だらだらと生きているから」
「えっ、セックス楽しくないの!?」
「い、いや……好きだけど、……それを第一にしているわけではなく」
「いいじゃん! 好きなセックスができる相手がいるってことが今の梓乃くんの幸せだよ!」
セラが俺を抱きしめる。俺はうう、と唸りながら、セラの肩に顔を埋めた。
智駿さんと一緒にいることが幸せなんてこと、当たり前だ。でも俺が今知りたいのは、自分自身の問題であって……ああ、なんだろう、もうわけがわからない。
俺は俺の夢を知りたい。これから俺は、大人になるから。大人に、ならないとだから。
「ま、悩むのもきっと、君の幸せにつながると思うよ。梓乃くん」
透明なセラの声が、俺の耳をくすぐった。
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