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セラの家から出る頃には、すっかり昼は過ぎてしまっていた。今日は父さんと母さんの結婚記念日。家に帰ってちゃんとお祝いしてあげないとだから、智駿さんのところに滞在することはできない。  俺はブランシュ・ネージュに向かう電車に揺られながら、セラに言われた言葉を思い返していた。本当に大切な人だからこそ、向き合うのが怖くて逃げたくなる――本当に、その通りだと思う。今まで違う人としてきた恋が適当なものだったなんてことはないけれど、きっと自分の将来に関わってくるであろう智駿さんとの未来は、軽々しく語れない。  たぶん、智駿さんが男だからということは関係ないと思う。たとえ智駿さんか俺が女だったとしても、俺はきっとものすごく悩んだだろう。自分の永遠を授けて、そして相手の永遠を授かる、そんな関係は簡単なものじゃない。 「うう~ん……」  まだ学生で、自分でろくにお金を稼ぐこともできないのに、こんなに悩むなんて……生意気なものだなあって思う。自分が大人なのか子どもなのか、わからなくなる。  大学生、ってすごく半端な時期だよなあってすごく思う。高校生のときまででは体験できないことと目まぐるしく出逢い、自分が大人になった気になってしまうのに――お金は全然なくて、生きていた年数も全然少なくて、将来のことを深く考えるには色々と足りない。周りの人たちも色んな人が居て、焦るあまりに心を取り残して体ばかり動いてしまう。  俺にとってこの時間は毒であり、薬であり。俺自身が中途半端な人間だから、この中途半端な時間に引きずられていってしまう。だからこそ、今回みたいに急に悩んで一人では解決できなくなってしまって。これからもこういうことがきっとあるのだろうと思うと、自分が大人になるという事実が疑わしく思える。  俺はいつ、智駿さんと対等になって、智駿さんとの未来を絶対にできるのだろう。 『次は学院前駅~――……』  ブランシュ・ネージュの最寄り駅へつくというアナウンスが車内に流れた。俺はハッとして車窓を見る。ぼんやりと考え込んでいると時間はあっという間に過ぎてしまうもので、考えもまとまらないうちに目的地についてしまう。  腰が、なんとなく重い。まだ、智駿さんと何を話すのか考えてはいなかった。俺自身の応えも何一つ出ていなかった。  扉に近づいていって、ドアを開閉するためのボタンに近づいていく。この電車の扉を開ける、そのことも少し怖かった。俺に気付いた、ボタンの側に立っていた人がボタンを押して扉を開けてくれた。まだ扉を開ける準備を心の中でできていなかったから、急かされたような気分になってしまって、俺は心がまだ荒波をたてている状態で電車から降りることになった。

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