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 智駿さんの部屋に入って、落ち着いて。ようやく俺は、智駿さんにことの経緯を話すことになった。なぜ、智駿さんと距離を置こうと思ったのか。智駿さんと離れている間に、俺は、どこまで答えを探すことができたのか。  元はと言えば、俺は自分の将来について悩んでいて、智駿さんがその悩みの逃げ場になってしまうのが嫌で距離を置いていた。けれど、将来について落ち着いて考えてみると、答えは智駿さんと過ごす時間の中にあって。距離を置いたわりには結局一人で答えを見つけることはできず、智駿さんと一緒に未来を探していきたい、そんな結論に至ったわけだけど。  そんな、まとまりのない話を、は智駿さんにバラバラと話してみた。答えという答えがないから伝えたいこともハッキリとしていなくて、いまいち筋の通っていない話になってしまったと思う。けれど、智駿さんはそんな俺の話を真面目に聞いていてくれた。 「……梓乃くんは、僕との未来を、僕と一緒に考えていきたいって思ってるの?」 「は、はい。……すみません、結局一人ではちゃんとどうしたいのか決められなくて……」 「ううん。なんか梓乃くんらしくてほっとしちゃった」 「えっ? 俺らしい?」 「あ、ごめんごめん、こっちの話。僕なんかは一人で勝手に答え決めちゃうからね。一緒に考えよう、って言ってくれるの、やっぱり梓乃くんだなあなんて」 「?」  智駿さんから返ってきた言葉は、思っていたものとは少し違っていた。  この言い方だと……智駿さんは智駿さんですでに違う答えを持っていたのだろうか。俺の知らないところで自分で考えていて、そしてそれをまだ俺に教えてくれていない?  少しだけ、細められた智駿さんの瞳に、俺は智駿さんの想いを探ってしまっていた。智駿さんの持っている答えってなんなんだろう。 「……智駿さんも、俺とのことを考えていたんですか?」 「……けど、梓乃くんとは少し違う」 「違う?」 「僕自身の決意のようなものだから。梓乃くんと一緒にいるために、僕はどうしたいのか……そういうことを考えていた、それだけ」 「それは俺に教えてくれないんですか?」 「言うにはまだ、柔らかすぎるの」 「……ふうん?」  智駿さん。智駿さんは、いったい何を考えていたんだろう。俺は、それを知りたかった。けれど、智駿さんがまだ言えないというのなら、言ってくれるまで待つべきなんだと思う。智駿さんの持っている想いが、決して、後ろ向きなものではない――そう、信じているから。  でも、智駿さんは自分の想いを持っているというのに、俺は結局何も持っていないってどうなんだろう――そんなことを考えてしまう。恋人なのに、俺ばっかり、なんか。 「……なんか俺……どこまでも、子ども、……ですよね。自分の考えを持てないというか……」  少し、落ち込んでしまって。うっかり、トーンを落としてそんなことをぼやいてしまう。  あんまり、智駿さんの前でこんなふうにはなりたくないのに。今日は、すっかりいつもどおりに戻って、いつものように甘い時間を過ごしたいって思っていたのに。  どこか、憂鬱になって。智駿さんから目を逸らす。  けれど、智駿さんはふ、といつもように優しい笑い声を漏らした。俺の肩を抱き寄せて、ぽんぽんと叩いてくる。

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