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「そりゃあ君は僕よりも年下だから。恋人だからって、どこまでも対等じゃなくたっていいんじゃない。少しくらい僕を歳上として頼ってよ」 「恋愛に歳なんて関係なくないですか」 「将来のことに関してはどうかな。まだまだ若い君は、そう簡単に将来なんて見据えられないでしょう。そんな君を支えるのが僕の役目なんだって思うよ」 「智駿さんも若いよ?」 「あはは、歳が近くても社会人と学生には大きな壁があると思うよ」 「……壁とは?」 「学ぶことができるかできないかの違いだね」 「それって違うの?」 「違うよ。学ぶことができる立場にある人は、考え方もどんどん変わっていくから」 「ううん? よくわからないです」 「わからなくていいよ」 「わからないのはダメです」 「……梓乃くん、今日は頑固だね?」 「大事なことだもん」  智駿さんはそんな俺の不安を汲んだように、優しい声をかけてきた。  智駿さんの言葉を、俺はなんとなく理解はできた。わからないわけじゃない。智駿さんには大人の余裕があって、俺はそれに寄りかかってもいいんじゃないかって思う。それが決して、俺が俺たちの将来を軽視しているということに繋がるわけじゃないとも、わかっている。  俺は、拗ねていたのだ。智駿さんに迷惑をかけたあげく、智駿さんに慰められてしまったということに。 「……梓乃くんはね、まだ若い。今から将来を決めるには、まだ足りない部分もあるんだよ。だから今は、焦らないで。僕の傍にいてくれたら、それでいいから」 「……うん」 「……梓乃くん? だからね、あんまり重く考えなくても大丈夫だよ。……わかった?」 「あのね智駿さん」  智駿さんも拗ねた俺に参っちゃってるなあって感じ取れる。俺も、こんなになっていないで、素直に智駿さんの言葉に頷けばいいんだけど。変なところで頑固な俺は、ひとつだけ、智駿さんに伝えないとって思った。 「俺、自分で考えたこともあるよ」 「どんなこと?」 「……智駿さんとずっと一緒にいて……そして、ふとした瞬間に智駿さんとの思い出を噛み締められるような、そんな未来がいいなって」  ちゃんとしたことは、智駿さんと一緒に考えよう。でも、俺は智駿さんと離れている間、感じたことがあった。俺の父さんや母さんみたいに、変わることのない何気ない幸せを大切にしていきたいってこと。ふわっとした大きな願いだけど、すごく大切な、俺の描く智駿さんとの未来だ。  智駿さんは俺の言葉を聞くと、きょと、と目を瞬かせた。あんまりにも抽象的すぎて拍子抜けしたのかもしれない。散々悩んでおいて、こんなにふわっとした考えを生んだのかって思っているかもしれない。でも、俺は智駿さんにこの想いだけは伝えたくて――まだまとまっていない言葉で、伝えたのだ。 「それが、梓乃くんが望んでいる未来?」 「……うん。きちっとは考えられなかったけど……」 「……、」  ふふ、と智駿さんは笑った。困ったような、泣きそうな笑い方で。  智駿さんはそっと俺の背中に腕を回し、俺を抱きしめた。そして、大切そうにぎゅーっと腕に力を込めてくる。 「……梓乃くんらしい。梓乃くんらしいね。ありがと、そういうこと思ってくれて」 「ち、智駿さん……?」 「……さっき言ったけど……僕も梓乃くんとの未来のこと、考えていた。でも、考えていたけど……不安とかはあったんだよ。でも、梓乃くんにそう言ってもらえると、……なんだか、簡単にその未来が実現しそうで、嬉しい」 「……智駿さんは、俺との未来は難しいって考えていたの?」 「ううん。ただ、乗り越えることがでてくるだろうなって。でも、梓乃くんがそう言ってくれると、二人でならなんだって乗り越えられそうな気がするんだ」  ……なんだか、俺まで泣きそうになって、誤魔化すように俺は智駿さんの肩口に顔を押し付けた。  そうだよね。智駿さんは大人で、俺のために色々と考えていてくれたかもしれないけれど、不安がないわけではないもんね。結局、二人のことは二人で考えていかないといけないんだと思う。それがわかって俺は、なぜかホッとしてみたり。変に焦った自分をそっと叱咤して、智駿さんを抱きしめ返した。 「梓乃くん」 「はい」 「がんばろ。二人で」  声をかけられて顔をあげれば、智駿さんがちゅっとキスをしてきた。すぐに離れていった唇を追うように、俺からもキスをする。ふふっと照れたように笑った智駿さんをみて、俺は感極まって、今度は智駿さんを押し倒すようにしてキスをした。  床に髪の毛を散らして俺を見上げてくる智駿さん。優しげに目を細めて、笑う。 「智駿さん」 「ん?」 「ずっと、会えなかった分」  智駿さんの手を誘導して、俺の服の中に入れる。あはっ、て楽しそうに笑った智駿さんを見て、俺は心底愛おしく思った。

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