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「ぁうっ……!」
やばい、と思ったとき。きゅうっ、と乳首を根元から引っ張られた。その瞬間、ゾクンッ! と真っ白な電流が脳天からつま先までを貫いて、俺は声をあげて喘いでしまう。それを皮切りとでも言うように、智駿さんがこりこりと強く乳首をこねてきて、もう、声がどうしようもなく出てきてしまう。
「あっ、あっ、あっ、……」
恥ずかしくて、恥ずかしくて、俺は許しを乞うように首をぶんぶんと振った。そうすればちらりと智駿さんと目があって、智駿さんはふっと生暖かい笑みを浮かべる。「しょうがないなあ」と優しい声で言って、ようやく録音を切ってくれた。
「声、いっぱい出ていたね」
「……っ、で、でてません、……たぶん」
「じゃあ、聞いてみようか」
「いっ、いいです! 大丈夫!」
いつもと違って意識して声を我慢していたつもりだけど……でも、でてしまっていた。自分の出した喘ぎ声なんて聞きたくない、と俺は必死に拒否したけれど、智駿さんはやめるつもりがなさそうだ。
智駿さんは俺をぎゅっと抱きしめると、ぼふ、と横になる。そして、俺の顔のすぐそばにスマートフォンを置くと、再生ボタンを押してしまった。
『あっ……!』
「す、すとっぷ、恥ずかしいから、すとっぷ!」
智駿さんに抱きしめられながら、自分の喘ぎ声を聞かされる。智駿さんのぬくもりと、自分の喘ぎ声が頭の中でぐるぐるしておかしくなってしまいそうだ。恥ずかしい、という気持ちがあるのに、このぼーっとしてしまう感覚が気持ちよくて、このままでいたいと思ってきてしまう。
「梓乃くん、声、可愛いでしょ?」
「……かわいくなんて、……」
智駿さんが、耳元で笑う。俺よりも少し低めな声が、下腹部までずくんと響いた。その間も、スマートフォンからはくぐもった俺の声が流れていて、妙な感覚を覚える。自分の声を聞いていたら……智駿さんの声も、一緒に聞きたくなった。
「!」
俺は、そっと智駿さんのモノに手を伸ばす。不意打ちだったせいか、智駿さんはびくっと体を震わせて、かすかに息をこぼした。
「俺だけ、……なんて、ずるいじゃないですか……」
「……梓乃くん、」
「智駿さんの声も、一緒に聞きたいです……」
智駿さんの下着の中に手を入れて、ゆっくりと、それを扱く。俺の背に添えられた智駿さんの手に、少し力がこもって、ぞくっとした。
智駿さんは、ふ、と笑うと俺の耳に唇で触れた。そして、は、と息を吐くと、吐息交じりの声で囁いたのだ。
「……じゃあ、しっかり、聞いてて」
ゾクゾク、と俺の頭の中がマヒしていくような感覚に囚われた。
智駿さんの、声。いつもは優しくて柔らかい声なのに……時々、男らしい声に変わる。あの声に変わるとき――俺はいつも、智駿さんの雄に翻弄されている。
智駿さんの声が聞きたい。あの声で、俺を犯してほしい……とろとろの理性で、俺はゆるゆると手を動かし始めた。
「……ん、」
「……ッ、」
その瞬間、智駿さんの声が俺の耳に入り込んできた。熱い、吐息と共に。その声がまるで俺の体に命令しているかのように、智駿さんの声に合わせて俺の体がびくんっとしなる。
低い。色っぽい。智駿さんの声って……こんなに、すごかったっけ。こんなにせくしーだったっけ。俺が知っていたはずの智駿さんの声は、予想よりもずっと、色っぽくて……おかしくなりそうだ。頭がぼーっとしてきて、何も考えられない。智駿さんのものを刺激する手も、上手く動かすことができない。
「……はぁ、……梓乃くん、……もっと、してくれないの?」
「んっ……、こ、こうですか……」
「あ、……そう、……上手、……梓乃くん。……んっ、」
「……ッ、」
脇では、俺の声が流れている。少し高くて、蕩けきっていて、いやらしい声。それに智駿さんの声が混ざり合って……まるで俺は、智駿さんに責め立てられているような――そんな錯覚を覚えていた。耳を通して頭の中に流れ込んでくる智駿さんの声は、興奮している時の智駿さんの声。きゃんきゃんと鳴り響く俺の喘ぎ声は、そんな興奮している智駿さんにいじめられている声。今の俺は、智駿さんに触ってもらっていないのに……まるで、智駿さんに抱かれている時のように、とろとろになっていた。
『あっ、あっ、あっ、……』
「はぁ、……は、……あ、」
ああ、俺……本当に気持ちよさそうな声を出している。こんなに大きな声を出して……相当、善かったんだな。
「んっ……あ、……はぁっ……ちはやさん、……」
「どう、僕の声……はぁ、……」
「すごく、いい……あっ……いい、智駿さんの声……もっと……」
『あぁっ、あっ……あっ、……あっ……!』
流れてくる俺の声が昇りつめてゆく。それに合わせて俺は、手を動かすスピードをはやめていった。智駿さんの呼吸の感覚が、短くなってゆく。スピーカーの声も智駿さんの声もどっちもイきそうで、俺まで飛んでしまいそう。無意識に、智駿さんの呼吸に合わせて短い間隔で息をしてしまっていて……一緒に、昇りつめて行っているような、そんな感覚。
「はぁっ……はぁ……イきそ、……梓乃くん、……」
「いって、……智駿さん、いって……」
「アっ――……、……ん、」
「……っ、く、ぅ」
智駿さんがびくっと震えて、俺の手に精液を吐き出した。そして、俺はそれと同時に――頭の中が真っ白になって、全身がふわーっと不思議な幸福感に包まれる。
これは……イッた、のかな……俺。
「……はあ、あはは、……一緒に、いっちゃいました、俺」
「梓乃くん……イッたの?」
「声……聞いていたら……」
「そう……自分の声、どうだった?」
「……あんなに、おっきい声出してるなんて思わなかったから、恥ずかしかったです……」
「今日は少し控えめだったけどね。いつもはもっと可愛い声出すよ」
「うう……控えます」
「だめだめ。僕はそんな梓乃くんの声が好きなんだから。……じゃあ、僕の声は? どうだった?」
「……す、すごく……えっちでした……」
「それはよかった。これから、もっと聞かせてあげたほうがいいのかな」
「えっ……ええ~……あんな声いつも聞かされたら……俺、おかしくなっちゃいますよ……」
声だけでイッちゃうなんて、俺、やばいかも。そう思ったけれど、体も心もすごい満足感だったから、なんとなく幸せな気分に浸ってしまった。イッたばかりで体温の高い智駿さんにぎゅっと抱きついて、智駿さんの鼓動に合わせて呼吸をすれば、胸がいっぱいになる。
……それにしても、俺の声……本当に大きいな。本当に隣に聞こえてないよな、大丈夫だよな!? ちょっと不安になったけれど、……特にご近所トラブルはないようだし、大丈夫、……なのかな?
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