276 / 327

 枕元で、小さくアラームがなった。智駿さんがセットしたものだ。時刻はわからないけれど、窓の外はまだ薄暗い。  俺の意識はおぼろげで、まだ頭は半分夢の中。頭にキスをされて、俺もキスを返したかったけれど、身体が動かない。目だけがぼんやりと動いて、体はまだ寝ているようだ。  智駿さんは音をたてないように静かにロフトを降りると、着替えを始めた。これから仕事に行く智駿さんに、ご飯を作ってあげたりしたかったけれど、智駿さんはご飯を食べている余裕もないだろう。洗面所で顔を洗うと、すぐに出て行く支度を始める。 「……、」  身支度を整えた智駿さんは、リードディフューザーの前に立つ。昨日も、リードディフューザーを気にしていたな……そう思って、俺はそんな智駿さんを見ていた。 「同じ部屋に住める日がくるといいね」  リードディフューザーの瓶に触れて、智駿さんがつぶやく。  その光景は、まるでフィルムのようで。夢と現実の境界が曖昧な今の俺は、ただ、ただ、ぼーっとその光景を眺めていた。

ともだちにシェアしよう!