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 「変化」に一歩踏み出すのは今じゃなくてもいいとして。いつかはきっと、そこへ行きたいと思うだろう。  そう思うと、少しくらいは心の準備をしておこうと思い始めた。俺は、いつかは智駿さんと一緒に住んでみたい。二人で幸せになりたい。その想いはたしかにあって、それと同時に変化を恐れている。そんな俺ができるのは、これくらいのこと。  帰宅して、俺はなんとなく自分の部屋を見渡した。同棲に足りないものってなんだろうか。 「家事、できるようになっておく……? 智駿さん、料理あまりしないみたいだし……掃除も俺の方が得意だな。あとー……」  家具は二人の好みを合わせたらどんなものを選んだらいいだろう。テレビの大きさは? ベッドのサイズは? コーヒーメーカーとか、いる?  ロフトにあがって、寝転がる。特に意味もなく、インテリアをネットで漁ってみたり、料理のレシピを眺めてみたり、もしも同棲したら……そんなことを考えてみる。やっぱり、楽しい。智駿さんと一緒に暮らすことを考えると、勝手に心がるんるんとしてくる。 「同棲か……」  一緒に住んだら、もっと一緒にいる時間が増える。毎日一緒に寝れる。そう考えると……体が、ほかほかと温もりに包まれる。 「……」  時間を気にすることなく、智駿さんとのんびり過ごせる。一緒の布団に入って、何もせずにゆっくりとだらだらと過ごすこともできる。考えるだけで幸せな気分になって、頭の中が溶けそうだ。  頭の中がいっぱいになると、体が少し寂しくなってくる。頭の中の自分が温もりに浸かっている一方で、現実の体はひとりぼっちだ。切ないと、泣き声をあげる肌を慰めるように、俺は無意識に服の中に手を入れる。 「ん、……」  えっちな気分になったというわけではないけど。肌がなんとなく寒くて、寂しくて、触れたくなった。智駿さんに触られているときが一番暖かくて気持ちいいから、無意識にそれを求めていたんだと思う。けれど、一回触ってしまうと、やっぱり少しえっちな気分にはなってしまって。 「んっ、……ぅ、……」  きゅむ、と乳首をつまむ。そして、くに、くに、と優しく揉んでみた。そうすればじわじわと体が暖かくなってきて、幸せな気分になってくる。 「あっ、……智駿さん……」  頭の中に、智駿さんを浮かべる。あの繊細なようで男らしい指先で俺の乳首をいじめながら……  ああ、そうだ。声。いつも、こうしながら智駿さんは俺に甘くて意地悪な言葉を囁いてくる。声が聞きたい。智駿さんの声を聞きながら、体を温めたい。  俺はスマートフォンに手を伸ばし、あのデータを引き出す。俺と智駿さんの声がはいった、あのデータを。俺の声も入っているのはちょっと気になるけれど、でも智駿さんの声が……今すぐに聞きたい。 『……ッ』  智駿さんの吐息の音が、聞こえてくる。その瞬間に俺の体がびくっと震えて、あそこが熱を持った。  布団をかぶり、目を閉じる。そうすれば智駿さんが側にいるような錯覚に陥る。時折混じる自分の喘ぎ声に恥ずかしくなるけれど、まるでエッチをしているときのように、体がほぐれてゆく。 『ん、』 「あっ、……ん、ぁ、……ちはやさん……」  乳首をいじりながら、智駿さんの声に耳をすませた。あそこをいじるとすぐにいっちゃうから、このふわふわとした気持ち良さを保っていたくて、むずむずするあそこには手を伸ばさない。乳首を指でつまんでぎゅっぎゅっと刺激すれば、ずくんっ、ずくんっ、と甘く響く快楽が全身に広がってゆく。  乳首の刺激で広がる甘い波紋が。耳から入り込んできて全身を貫く智駿さんの声と交差する。交わった瞬間にびりっと白い火花が散って、俺の体は勝手に跳ね上がる。智駿さんのほとよく低い声が、俺のおへその下のあたりにどんどん溜まっていくから、火花はそこでたくさん巻き起こる。びりっ、びりっ、とそこで連続して快楽が迸って……俺の頭は、真っ白だ。 「あっ、……あっ、ちはやさんっ……ちはやさん……ぁあっ、……」  じわ、……と頭の中に蜜が浸みだすような、そんな感覚が生まれる。智駿さんの声が俺のあそこのなかでどくんどくんと響き渡って、声も出ないような快楽が俺の体を支配する。全身の力が抜けて、それでも下半身だけはぎゅーっと収縮していて……甘ったるくて穏やかな絶頂の海に、体が沈んでゆく。 「あ、……はぁ、……はぁ……」  寂しさで肌寒さを感じていた体は、快感の温もりに包まれて火照りを帯びていた。俺はくたりと大の字になりながら、ゆるりとリードディフューザーを視界に入れる。  もしもあれが、二つ必要なくなったとき。そんなときが、くるのだろうか。そのときの俺は、一体どうなっているのだろう。今よりも、大人になっているのだろうか。  数度、リードディフューザーに触れていた智駿さんを思い出し、ためいきをつく。智駿さんはあれに触れながら、何を考えていたのだろう。俺の言葉をどう受け止めたのだろう。あの表情は……なんだったのだろう。 「ちはやさん……」  目を閉じる。明確に描けない未来に手を伸ばしてみる。  触れてみると、案外、暖かかった。

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