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「んっ――……!?」  脚の間に膝をいれられて、ぐっと股間を刺激された。そして、太ももでずりずりと下腹部全体を擦られて、びりびりじわじわと微波動のような快楽が広がってゆく。    重ねた唇は、すっかり窪塚さんに翻弄され。窪塚さんのキスに虜になった俺の体は、俺の意思など関係なく窪塚さんを求めてしまう。舌を絡められれば、無意識に俺も舌を伸ばしてしまって。舌を交わらせ、熱を溶け合わせ、もっともっととねだってしまう。  このままだと……体に、心が引きずられていってしまいそうだ。脳みそがぐずぐずになるくらいに気持ちよくて、俺の本懐を失ってしまう。 「うっ……、ん……」 「翼、こっちを見ろ」 「あっ……」  唇が離れて行って、思わず俺は舌で窪塚さんの唇を追ってしまった。「や、……」と声が出てしまって、しまったと思ったときには窪塚さんはにっと微笑んでいた。  窪塚さんは俺の濡れた唇を親指で拭うと、また顔を近づけてくる。火照る唇が寂しくて俺が涙を流すと、窪塚さんは目を細めた。 「翼、好きだよ。おまえのこと、幸せにしたい」 「……おれ、……いまが、しあわせだから……」 「そんな他人のことを避けるような生き方をして、幸せだなんて……俺にはそう見えなかった。あんなに切なそうな顔でいるおまえが、幸せだなんて――……」 「幸せ、なんです――……! あの人のことを好きになりすぎると俺が俺でいれなくなるから……今のままで、……!」  ――あ、  快楽で溶かされた心が、つい本心を口走ってしまう。  窪塚さんは俺の言葉に一瞬瞠目したが、しばらく黙り込み――少し悲しそうに、眉をゆがめた。 「……他人のことを好きになることが、怖いのか? だから、ああして人と深く関わらないように生きているのか?」  余計なことを言ってしまったと、思った。  そうだ、俺は好きな人がいる。けれど、その人を好きになりすぎるのが怖くて、その人と距離をとった。だって俺は、自由に空を羽ばたいてみたかった。しがらみから解放されて、自由に生きてみたかった。それなのに、その人と一緒にいると――その人のもとに、根付いてしまいそうで。羽ばたくことを忘れてしまいそうで。だから、人を好きになることはやめようと、そう思ったのに。 「おまえが好きだっていうソイツは、おまえに人を好きになることの幸せを、ちゃんと教えられなかったんだな」 「そっ……そうじゃない、……たしかにあの人は甘ったるい言葉も何も言ってくれないけど……でも白柳さんは俺のことを大切にしてくれる、」 「でもおまえはソイツから逃げて、そしてそんなに傷付いた顔をしている」 「傷付いてなんか――……」 「俺は、おまえのことを離さないし、逃げたいだなんて思わせない」 ――白柳さんは。俺のことを、遠くで見守っているような、そんな人だった。  俺はそんな白柳さんが好きで、好きで、……大好きだった。キスもしたし、セックスもしたし、……甘い言葉は少し足りないような気がするが、それでも優しい関係を結んでいたと思う。でも俺は、白柳さんのことが好きになり過ぎそうになって――彼に、会わなくなった。  白柳さんは、そんな俺のことを縛り付けようとはしなかった。彼から会おうと言ってきたこともほとんどなかったし、こうして距離をとるようになってからも全然連絡もしてこない。彼は、俺のことをわかっているのだ。俺が空を飛びたいと思ったときには、その下で佇んで下りてくるのを静かに待っている止まり木――彼は、そんな人。 「――翼」 「あっ―ー……」    しかし、窪塚さんはそんな白柳さんのことが理解できないらしい。俺が、「それでも白柳さんに会いたい」と思っていることが許せないようだ。そんな想いを抱かせるくらいなら、はじめから捕まえておけ、と。  窪塚さんは俺のことを体から捕まえようと、俺の体に甘い愛撫を始めた。体を蕩かして、そして心も蕩かして……俺のことを、愛し尽くそうと、そうしている。どろどろに甘くて、丁寧で……そして、上手なその愛撫に、俺はたまらず善がる。捕らえられてはいけないと思っているのに、あまりの快楽に徐々に窪塚さんにすべてを許してしまいそうになる。 「あっ、……あっ、……だめ、……だめです、窪塚さん……」 「だめ、じゃない。善いって言え……翼」 「あっ――……そこ、……そこは、……だめっ……窪塚さん、だめぇ……」  初めて触れられたというのに、窪塚さんは俺の体を全て知り尽くしているかのようだった。俺の些細な動きで俺のいいところを探り当てて、そこを徹底的に責め上げる。その大きな手でじっとりと撫で上げられ、その赤い舌で敏感なところを舐られて、俺は大きな蛇に巻き付かれたような、そんな快楽の渦に取り込まれていた。 「ん、っ……ぁふ、あ、……あんっ、あぁっ……」  ぐ、……ぐ、……と上半身を揉みあげられながら、穴に舌をねじ込まれた。股間に頭を突っ込まれて、脚を閉じることもできず――むしろ、あまりの気持ちよさに勝手に脚は開いていって。俺は窪塚さんの髪をかき混ぜようようにして掴みながら、のけぞり――追い詰めらる。ぬろ、ぬろ……と敏感な溝を舌が這えばゾワゾワと電流のような快楽が俺の下腹部に広がっていき、ずにゅう……と舌がはいってくれば鋭い白波が脳天を貫き果てそうになる。それの、繰り返し。俺は小刻みに体を震わせ、腰を揺らし……「あぁ、あぁあ、あぁー……」なんて情けない声をあげて、泣いて許しを乞う。  おかしくなってしまう、こんなに気持ちいいと……おかしくなってしまう。

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