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「……ちょっと、頭冷やしたほうがいいかもな、俺」 「――……」  ここで、「そんなことない」と言えたらよかったのかもしれない。  でも俺は、言えない。  白柳さんの言葉が、矢のようにぐさりと俺の胸を穿っていた。 「……もし、おまえがまだ俺に幻滅していなかったら、また前みたいに俺の家に来てくれや。少しは俺も冷静になっていると思うよ」 「……、」  ギ、とベッドが軋む。彼がまだ来ていなかったシャツを羽織って、立ち上がる。  「またな」と言って彼は部屋を出て行ってしまう。そんな彼に俺が抱いたのは――切なさと、そして、安堵。好きな人に突き放されたことにショックを受けながらもホッとしている俺は……やっぱり、どうにかしている。  泣くなんて、そんな女々しいことはしない。いや、できない。純粋に哀しいという気持ちすら、俺は抱くことができないかった。

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