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*  白柳さんが出ていった部屋で、しばらくぼんやりと過ごしていた。抱かれたときの姿のまま、天井を見て、ただただぼんやりと。熱というものは冷めるもので、あんなにも熱かった体がもうなんともない。体の奥はまだ少し疼いているが、もう、肉のかたまりのように、この肌は熱を忘却してしまっていた。  熱が引けば、あれほど俺の中をぐるぐると走り回っていたぐちゃぐちゃな気持ちが、すうっと消えていった。俺は、白柳さんに何を求めていたのだろう。白柳さんに何をしてほしかったのだろう。その答えも、なんとなくわかってくる。  ――答えは、ないのだ。  俺は……おかしい人間だ。そんなことは、今までの人生を顧みればわかっていたこと。普通の人生を歩んでいない俺は、普通の人のような頭を持っていない。なにもかもがめちゃくちゃで、ぐちゃぐちゃで、気持ち悪い人間なのだ。自由でいたいのに、白柳さんに縛られたくて、でもいざそうなろうとすると何もかもが怖くなって。今の自分は嫌いなのに、今の自分が変わろうとするその瞬間に何よりの恐怖を抱く。所詮、肥溜めで生きた人間は、青空の下で生きることなど、できやしない。 「……」  窪塚さんに預けられた鍵を思い出す。  泥水のような感情が引いたあとに残るのは、からっぽだ。からっぽを埋めるすべを、俺は一つしか知らなかった。  所詮、肥溜めで生きた人間だ。すべてをセックスで解決してきた人間だ。  あれほど怖いと思った窪塚さんとのセックスが、恋しい。飛びたいと願う俺の翼をむしり取るような、あの灼熱がよい。ああそうだ、彼の傍にいれば、いつからか抱いていたこの願いだって焼け落ちてくれるに違いない。  ……翼。俺の名前は、翼という。自由を駆ける力の名だ。  自由って、なんだろう。

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