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第3話
2人の背中を見送ってからカシュッと缶ビールの蓋を開けた。英が作ったカレーを食べながらぼんやりと思い出す。
ああ、そうだ。
大学卒業の1ヶ月前だ。
寒い冬の日だった。
ーーーたった一度だけ、英と親友以上の関係になったことがあった。
大学近くの安アパートに俺が英を呼んで、二人で夕方から深夜まで飲み続けた日だった。
『それで?今日もなんか話があるから俺を呼んだんじゃないの?まさか、またフラれたの?』
お酒の強い英が、珍しく頬を染めていたのを覚えている。俺も既に缶ビールのゴミでタワーが作れるほど飲んで、フワフワと心地よくなっていた。
回らない頭で大切な事柄を思い出す。
『いやぁ…あのさぁ、俺ぇ、美羽と結婚すんだ』
『……え?』
『美羽に赤ちゃんできたんだよぉ。やっぱりぃ男なら、ちゃんと責任とりたいしさぁ。お前にはぁ…一番に言いたくて…だから、今日、誘ったんだ』
回らないのは頭だけじゃなく、舌もだった。
『……』
何も返事のない英に、ちゃんと伝わっているのか不安になり、顔を見る。
英の動きが止まっていた。目を見開き、心底驚いている顔だが、なにかそれ以外の感情があるのか、口角がぴくりとひきつれるように震えていた。けれど、まるでソレを隠すかのように暫くしていつもの笑みになった。
『…良かったじゃん!おめでとう!ほら、もっかい乾杯しよう?』
『おう、ありがと。っ、乾杯!』
微炭酸が、僅かな疑問を腹の奥へ流し込む。
『そういえばぁ、英はぁ?最近会わなかったけど、彼女できた?』
『…あ~…いや』
『マジでぇ?最後に彼女居たの中学かよぉ?なんでお前みたいな良い奴に彼女ができないんだよぉ?選り好みしすぎなんじゃないのかぁ?』
『…だって、俺、ゲイだからね』
『へ?』
『ゲイだから彼女はできないよ』
『…そ、うだったのか…』
『あ、そうだ。ゆうと、結婚前に男も一度試してみる?』
『なにを…?』
『何って、ナニでしょ?…独身、最後なんだから…、冒険だよ、冒険。結婚したらできないでしょ?男同士だから浮気じゃないよ』
『う、え?…あ、ああ…?』
酒が入ってた。アルコールが正常な判断を鈍らせたのだ。
そのまま、英の唇が俺の口を塞いだ。
生暖かい舌が咥内を、酒で熱くなった手のひらが服の下で肌をまさぐった。
混乱してたけど、英が触れるところはひどく気持ちよかった。まるで、俺がどう触れられたいのかを知っているかのようだった。
心地よさにそのまま身を委ねていると、いつの間にか俺が下に倒されていたことも気づかなかった。さすがに、英のちんこを挿れる時は異物感と僅かな痛みに涙が出たけど。
『ゆうと、っ…息、して?』
『くっぅ、ふぅ…っ』
『ゆうと…っ、あと…少しだから…っ、あと少しだけ…っ』
『はっぁ、んんっ…はな、ふ…さ…っ』
切羽詰まった英の声に、ポタリと熱い液体が頬へ降ってくるのが分かった。
きつく閉じた瞼を開ける。
(ーーーああ、なんて顔してんだ)
汗かと思ったのに。
尻が裂けそうで、辛いのは俺の方なのに。
なんで、お前が泣いてるんだ、英。
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