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第9話

 ・・・・・・さっきから、そうすけの気持ちが悲しい。  店から出たそうすけは、ずっと無言だった。早足で前をゆくそうすけの後を、さとりは一生懸命追いかけた。  そうすけ・・・・・・?  さとりは悲しかった。そうすけが、さとりに話しかけてくれないからじゃない。ちらともさとりのほうを見ないそうすけの背中は、何かに苛立っているようだった。トゲトゲしたそうすけの気持ちが切なくて、さとりの胸の中は悲しい滴でいっぱいになる。  どうしたらげんきを出してくれる・・・・・・?  そのとき、さとりは反対側からくるひとの腕にぶつかった。 「ああ・・・・・・っ!」  勢いよく突き飛ばされたさとりは、その場に転がった。 「さと!」  少し先を歩いていたそうすけが気づいて、慌てて戻ってくる。 「大丈夫か、さと」 『ケガはないか?』  心配そうに顔をのぞき込み、転んださとりを抱き起こしてくれるそうすけは、もう普段通りのそうすけだった。さとりはほっとした。 「うん。おいらはへいきだ」 「そうすけは大丈夫か? もう、胸のあたりがチクチクしてないか?」  さとりが訊ねると、そうすけはなぜかハッと胸を突かれたような顔をした。 「・・・・・・ああ。もうチクチクしないよ」 「よかった」  さとりはにっこりと笑った。  転んだときに、さとりの頭から落ちてしまった茶色いものを、そうすけが拾ってくれた。 「う?」  頭に手をのせて、不思議そうに首をかしげるさとりを見て、そうすけがほほ笑む。 「麦わら帽子だよ」 「・・・・・・むぎわらぼうし?」 「そう。日差しから、頭を守るんだよ」  さとりは、おお! と目を見開いた。すごい、世の中にはそんな便利なものがあるなんて。 「そうすけも被るか? むぎわらぼうし」  さとりが訊ねると、そうすけは「俺はいいよ」と笑った。

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