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SS「クリスマスの夜に」

「その声が聞きたい」は、もともと別のサイトさんでの賞に応募するために書いた話でした。そのときShivaさん(@kiringo69)が別の方の作品もふくめ、表紙を描いてくださったのですが、2017年クリスマスのときに、それぞれのキャラクターたちのサンタコスプレ勢揃いのイラストを描いてくださったことがありました。 Shivaさんが表紙を描いてくださったキャラクターたちの集合絵です。さとりはみんなの中で、恥ずかしそうに、でもうれしそうに壮介の陰に隠れているイラストなのですが(サンタコスプレ、ショートパンツ姿です!)とてもうれしかったです。そのときのSSをツイッターアカウントのフォロワーさま限定で公開していました。 というのも、一部別の方の作品のキャラクターを勝手に登場させてしまったからなのですが、今回あらためて再掲させていただくことにしました。 イラストは載せられないのですが、少しでもお楽しみいただけたらうれしいです。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「は~、疲れたなあ」  帰宅するなり、そうすけはソファにどっかりと腰をおろした。 「ま、待っててね。いまお茶を入れるから」  さとりはコートを身に着けたまま、キッチンで薬缶に火をかけた。それからお風呂の準備をするため、パタパタとバスルームへと向かう。今夜は「くりすます」というやつで、さとりはそうすけがつき合いで断れなかったホテルのパーティーに同行したのだった。  さとりは、まず湯船に湯を張った。それから何種類も常備してある入浴剤を手に取り、パッケージに記載されている効果を確かめる。 「えっと、何がいいんだろう」  冷え取り。お休み前のひとときに。美肌とリラックスのために。まるで花束のようなみずみずしさ。気分をリラックスさせるために。腰痛と肩こり……。さとりはその中から疲労回復と書かれていた入浴剤を選ぶと、バスルームに準備した。 「さとり~。何してるんだ。早くこっちへおいで~」  リビングから自分を呼ぶそうすけの声を耳にして、さとりはびくっとした。急がないと、そうすけにおかしく思われてしまうかもしれない。 「ま、待ってて。もうすぐお風呂がいっぱいになるから」  さとりは慌てて返事をすると、いそいそとコートのボタンを外した。 「早くこれを着替えなきゃ」  以前そうすけが買ってくれたコートの中からでできたものは、真っ赤な生地に白いふわふわがついた衣装を身にまとった自分の姿だった。 「そうすけはおかしくないって言ってくれたけど、なんでこのズボンはこんなに短いんだろ……」  すうすうする生足を見下ろして、さとりは首をかしげる。そのとき、リビングで待っているはずのそうすけが洗面所に顔を出した。 「さとり? さっきから何をしてるんだ?」 「ひゃっ」  さとりはぴょこんとその場で飛び跳ねた。 「そ、そうすけ!」  何してるんだ、と訊かれてさとりはどきまぎする。そうすけの心の声から、彼が自分のこの格好を気に入っていることには気がついていた。それでもやっぱり恥ずかしい。 「あ、あのね、この洋服、借り物だと言っていたでしょう。汚さないうちに着替えようと思って。すぐにいくから、さきにお部屋に戻ってて」 『着替え?』  案の定、さとりの言葉にそうすけは渋い顔になった。 「なんで着替えるんだ。似合っているのに」 『せっかく家に帰ったら、さとりといちゃいちゃしようと考えていたのに。サンタコスプレのまま、恥ずかしがるさとりを散々可愛がるのを楽しみにしていたのに。アンアンかわいい声でさとりを泣かせて……」 「わーわーわー!」  それ以上聞いていられずに、さとりは真っ赤になってそうすけの口を塞ぐ。その手をぱくりと咥えられ、さとりはびくっとした。そのまま指の股を舌でぬるりと舐められ、さとりは視線をさまよわせる。 「そ、そうすけ……?」  なんだか腰のあたりがぞわぞわする。これが気持ちいいということだと、いまのさとりは知っている。さとりはぶるりと身体を震わせると、ぎゅっと瞼をつむった。 『ああー、イッちゃったかー』  そうすけの言葉に泣きたい気持ちになる。さとりは恥ずかしくてうつむいた。短いパンツの中は、さとりが放ったものでベタベタする。これが「お漏らし」とは違うことは、前にそうすけから教えてもらったけれど、借り物だという洋服を自分の放ったもので汚してしまったさとりは、ショックで茫然とした。 「ごめんなさい……」 「何が?」  目尻のあたりをチュッと口づけられる。次の瞬間、ふわりと身体が浮いたと思ったら、さとりはそうすけに抱き上げられていた。 『こんなことで落ち込んじゃうなんて、さとりはかわいいなー』  リビングのソファに運ばれ、借りた衣装を脱がされた。ついでにホットタオルで汚れも拭いてもらう。その間も、そうすけはずっと上機嫌だった。 「きょうはたくさんいろんな人がいたから疲れただろう。無理していかなくてもよかったんだぞ」  人間の心を読むたびに、ひどく消耗するさとりを、そうすけは心配してくれる。いまもまるで自分のことのように心を痛めるそうすけに伝えたいことがあって、さとりはぷるぷるっと頭を振った。 「あ、あのね、たくさんの人は確かにいたけどね、大丈夫だったみたい」 「ん? どういう意味だ?」  さとりの言葉に、そうすけは首をかしげた。 「えっとね、心の声は聞こえてきたんだけどね、嫌な感じは全然なかったの」  きょう集まったパーティーには大勢の人がいた。その中には確かにどろどろしたものを抱えた人もいて、気分が悪くなりそうだったけれど、さとりはそうすけ以外で初めて心の声を聞いても具合が悪くならない人間に出会ったのだ。言葉にするには恥ずかしいことを考えてもいたけれど、みんな大切な誰かを想っていた。そうすけがさとりと一緒にいるとき思ってくれているみたいに、相手が愛しいという気持ちであふれていた。それはさとりにとって驚くべきことで、ドキドキして、またうれしかった。 「あのね、中には人間じゃない人もいたみたい」 「人間じゃないってどういう意味だ? 俺たちと同じってことか?」  さとりは、うーん……と考えた。うまくは説明できないけれど、さとりたちとはちょっと違う気もする。 「なんか狼さんとかね、あと龍神さまみたいな人もいたよ」  さとりの言葉に、そうすけはぎょっとした。 「龍神って、神さまのことか!?」 「うん」 「だ、大丈夫だったのか!?」 『まさかさとりに何か害を与えるようなことは……!?』  腕を痛いほどにつかまれる。さっきのふわふわした感情はどこかに消えていて、そうすけの心の中はさとりを心配する気持ちでいっぱいだった。 「だいじょうぶ。そういうんじゃないみたい」 「本当に?」  さとりがこくんと頷くと、そうすけは見るからにほっとしたようだった。 『そうか、よかった……』  さとりは胸の中を、何か甘いものできゅうん締め付けられた。  これは何だろう……?  さとりは胸に手を当て、自分の感情を推し量ろうとする。なんだか心臓がドキドキしているみたい。  ふいに、そうすけにじっと見つめられて、さとりはドキッとする。そうすけの目は何かを企んでいるようだ。 『……まあ、傍で見ている限りでは、みんなデレてそんな余裕もないみたいだったけどな』  そうすけ……? 「なあ、さとりは会場にいる人間たち考えていることがわかったんだろう?」 「う、うん……」  さとりはドキドキした。そうすけはいったい何を聞きたいのだろう? 『あいつら、どうせ帰ったらコスチュームプレイをするか、サンタコスを脱がせることしか頭にないだろうに』 「もちろん、俺の心の声も聞こえたよな?」  そうすけは、男らしさの滲む艶やかな笑みを浮かべている。 『あいつらと俺、どっちの方がエロいこと考えているかくらべてみようか?』  さとりはきゅっと唇を噛み締め、うつむいた。耳のあたりまでがかあっと熱くなる。心臓はドキドキして、はちきれそうだ。 「ーーなあ、俺のサンタさん。俺に特別なプレゼントをくださいな」  さとりはハッとしたように顔を上げた。「くりすます」とは、何か特別なプレゼントが必要だったのだろうか。  何も用意をしていなかったさとりは、落ち着かなさげにきょろきょろと部屋の中を見渡す。  どうしよう、そうすけに何もプレゼントを準備していない。せっかくの「くりすます」なのに……。  さっきまで楽しかった気持ちが嘘のようにしおれてしまう。そのとき、そんなさとりの気持ちをすっかりお見通しなそうすけが、にっこり笑って両手を広げた。 『……俺に特別なプレゼント、くれるだろう?』  胸がぎゅっと苦しくなる。こんなおいらでもいいなら、いくらだってあげる。そうすけにあげる。  さとりは膝立ちになったまま、おそるおそるそうすけに近づいた。 「さとり?」  それから驚いているそうすけの首にきゅっと腕をまわすと、恥ずかしくて消え入りそうな声で「どうぞ」と答えた。

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