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第3話 ポヤンとザワザワの狭間
三、
ー ポヤンとザワザワの狭間 ー
目を擦りながらやっと起きてきた葉ちゃんに要さんを紹介すると、葉ちゃんの顔がはじけそうになってる。
「 俺、葉です!よろしくお願いします 」
と言いながら要さんを見る目、ちょっといやらしくない?
なんか益々ライバルが増えた。
秀樹さんが葉ちゃんを起こしたのは一緒に湾の端っこで素潜りしようということらしい。
暗くなる前にちょっと行ってくる
と二人でシュノーケルとマスクとフィンを持って船から下りた。
残された僕と要さん。
「 よし、何が釣れるか?」
と早速持ってきた釣り道具を開き始める。僕もそれを手伝いながら、
「 あ、忘れてた!要さん何飲みます?ビールですか?」
と熱心に釣竿の面倒見てる大きな背中に声をかけると、
カップ酒をヒョイっと道具箱から持ち上げる。
穏やかな笑顔で
「 飲む?」
と差し出されたカップ酒。
日本酒得意じゃない僕も要さんがキャップを開けて、
「 このチビチビやりながら釣るのが極楽極楽 」
なんて言うので一緒に舐めたお酒は一気に僕の頰を赤らめた。
二人で素潜りに行った葉ちゃんと秀樹さんの仲の良さが少し妬けるけど、なぜか堤防で二人、一緒に釣り糸を垂れてると心がポヤンとしてくる。
「 カンカンと威勢が良かった陽が仕方なさそうに沈んでいくなぁ、
さよなら、また、明日な 」
そんな要さんの言葉とお酒に酔いながら僕はいつのまにか寝てしまったらしい。
気がついたら僕の身体にはブランケットがかかり、桟橋では賑やかな声が上がっていた。
「 おう、目が覚めた?今日はよく寝るな 」
と秀樹さんが笑いながら僕のそばにやってくる。
「 風呂入ったの?」
身体から僅かに香る石鹸の匂いにそう聞くと、
「 あぁ、俺と葉ちゃんはあそこの民宿で風呂借りたよ、
ハルトも要さんと飯できる前に行ってきたら 」
葉ちゃんと風呂?……
寝てしまったことへのちょっとミスした気持ちと二人で行ったという事実にザワザワした気持ちを置いて、
「 じゃぁ、そうしようかな 」
と答える。
桟橋の先から要さんが僕の方に手をあげる、指をさして先に行ってるとジェスチャーするので僕も慌てて着替えを持って追いかけた。
また、桟橋では葉ちゃんと秀樹さん、二人なんだ。
つくづく今回は葉ちゃんとは接点が持てないよね、まだまだ恋人未満なのに。
二人の方は見ないようにして桟橋を離れる。
情けない気持ちは風呂で流してこよう。
気分を入れ替えようと僕は要さんを走って追いかけた。
民宿の風呂は時間的に混んでいたので僕らは身体をさっと洗って少し浸かるとすぐに出てきてしまった。
要さんは身体も大きいし後から入ってきた親父何人かに
「 兄ちゃん、でかいな三人分だなぁ 」
なんて皮肉っぽく言われかなり肩身が狭かったみたいだ。
それでも穏やかに挨拶しながら湯殿を後にする要さんと風呂上がりに500mlの缶ビール一本分け合って飲んだ。
「 おーい、煮えてきた〜〜!」
遠くから葉ちゃんの声がする。
かなり機嫌が良さそう、良かったさっきの僕の態度気づかなかったんだ。
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