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第5話 朝飯、そして出航

五、 ー 朝飯、そして出航 ー いつのまに寝ていたのか小波に揺れるキャビンの中にも朝陽が射した。 デッキに上がると釣り船とヨットが何艘か出て行くのが見えた。引き波でウインズも揺れている。 僕の他には? 見渡すと堤防に秀樹さんと釣りをする要さんの姿が見える。 昨夜の話がリフレインされるけどとうの二人はいたって自然な距離にいる。 起きた僕を見つけたのか秀樹さんがおいでと手招きするので避けるわけにもいかないな。 堤防に登ると網かごが上げられていて中には何杯かのワタリガニが捕まっていた。 「 大きいね 」 「 そうだな、これ、朝の味噌汁にしよ」 と、いつもの通りの嬉しそうな秀樹さん。 「 お〜俺ワタリガニの味噌汁、好物だ 」 要さんもしゃがみこんで三人で網かごからバケツにカニを移す。 「 要さんはなんか釣れた?」 「 今朝はダメだなぁ 」 「 これ?」 「 シコイワシ、手でさばくからポン酢で食うか 」 「 お、いいねぇ 」 三人で船に戻ると葉ちゃんも起きていた。 さっそく要さんがシコイワシを手開きして二本の割り箸に引っ掛ける、そのままクーラーボックスで冷やすらしい。その間に炊いていた白飯が炊き上がる。 秀樹さんはワタリガニから出汁をとり味噌汁を作っている。 葉ちゃんはその側でみんなの姿をスケッチしているようだ。 和やかな朝の時間。 シコイワシのポン酢、ワタリガニの味噌汁で朝飯を済ますと、今日はどこにヨットを着けようかと秀樹さんと相談した。 釣りが出来て、シュノーケルで潜るのもできる場所。 ここから少し西に行ったところ小さな湾内に、岩場の外にアンカーリングが出来て岩場でシュノーケルできる場所がありそうだ。 エンジンをかけて波浮の港の外に出る。良い風を拾い帆走する。 波に乗りながら帆に風を受けたヨットの揺れが本当に気持ちいい。 「 こんな贅沢な時間、ハルトいいよなぁ 」 今日初めて葉ちゃんが僕に話しかけてきた。 「 いつでもおいでよ、葉ちゃんなら歓迎するよ 」 「 でも秀樹さんが言ってたけど、いつも普通の土日はレースとかやってるんだろ 」 「 毎週じゃない、最近レースも減ってきたし、外でプラプラ乗ってる日が多いよ 」 「 へー 」 と言ったまま会話は風に飛んで行く。 強い日差しを浴びて水着になった男四人は心地よい風にそれぞれの場所でリラックスする。 バウが波を切る音、微かに聞こえる岩場にぶつかる波の音、全てが波で海で構成されたまわりに日常のことは全て忘れる。 一時間ほど帆走を楽しんで、目星を付けた湾に入るとアンカーリングするポイントを探す。 「 先ずは何飲むか 」 秀樹さんがデッキに上げたクーラーボックスの前にしゃがみこむと葉ちゃんも中を覗き込む。 こういう仕草がたまらなく可愛いんだけど、秀樹さんや要さんにもそう見えるのかな。心配症な僕が顔を出す。 案の定秀樹さんは葉ちゃんの頭をかき混ぜて何か笑い転げてる。 その光景にツンと90度顔を避けた僕の目には要さんのびっくりするくらい眉を寄せた表情が目に入った。 何に怒ってる?

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