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第6話 潜ろう
六
ー 潜ろう ー
「 そうだ西瓜、西瓜冷えたよな 」
秀樹さんがクーラーボックスから西瓜を取り出すと、クーラーボックスの蓋を皿にして西瓜を2つに包丁で割る。
2つに割った西瓜に片方にはラムを、
片方にはウオッカと少々の塩。
「 え?ソルティードッグのスイカ版?」
葉ちゃんが嬉しそうに呟く。
「 スプーンでガシガシ食うぞ!」
そう言うと秀樹さんは僕らに大きめのスプーンを放り投げた。
半割のスイカに取り付く男たち。
「 タネは飲むなよ~盲腸になるぞ 」
笑いながら頬張る。
冷たく甘いスイカに夏の景色が眩く映る。甘いスイカの豪快なカクテルが日焼けして火照った身体を優しく冷やす。
「 夏だ〜〜!」
と叫んだ要さんに僕らも呼応し思いっきり青空に指を立てた。
「 さーて、水中散歩しますか、要もするだろ?
岩場の方も結構透明度高いから、楽しいぞ 」
秀樹さんの言葉に、アルコールも日差しで瞬く間に飛んだ僕らは頷く。
「 あれ! ウミガメ 」
叫んだ葉ちゃんの視線の先には右の根の近くを悠々と泳ぐ亀の甲羅が見えた。
うわぁ、と言いながら望遠レンズを構える葉ちゃん。
いつのまにそんなものを用意したのか、のんびりした印象しかなかった葉ちゃんの素早さに僕は驚いて思わず吹き出した。
「 そこ、吹き出す理由なんだ?」
秀樹さんに聞かれたので素直に答える。
「 だって葉ちゃんがこんなにすばしっこいとは思ってなかった 」
「 へー 」
と不思議そうな顔をする秀樹さん。
あれ?秀樹さんの中の葉ちゃんは違ってたのかな。
順番にシュノーケルやマスクやらフィンを履いて海の中に入る。
「 ああ〜生き返るな、この海の中 」
要さんが本当に気持ちよさそうに仰向けになる。
「 身体を波に預けると、太古の昔俺は三葉虫で海に住んでたんじゃないかと思うよ 」
「 三葉虫?ウミユリでしょ、海水にユラユラするんだったら 」
「 そうかな〜〜」
のんびりした要さんと楽しそうに食らいつく葉ちゃん。
そんな葉ちゃんの腰に手を当てて、あっちへ行くぞとシュノーケルを付けた秀樹さんが身体で誘う。
要さんはまだのほほんとと仰向けで波に漂いながら岩場の方に流されて行く。
なんだか面白くない僕が一人残された。青かった海の色が暗い藍色に見えたのはきっと日陰に入ったせいだね……落ち込むなよ自分。
離れて岩場の方には向かう僕も直ぐに海の中に夢中になった。
あ陽の光は海の中までしっかりと届いている。遠慮ない小さな魚の群れが目の前を通り過ぎる。
フィンを足首から柔らかく動かすと思った以上に身体が進む。
海底には少しクリームがかった柔らかそうな砂が敷き詰められ、時々それに煙を立てるカラフルでいたずら熱帯魚。
名前はー秀樹さんならわかるんだけど。
あれ、サンゴ?これ。とうとう大島にもサンゴが。
岩礁に近づくと岩には沢山のイソギンチャクがしがみつく、色鮮やかなのその姿に見ほれながら、その陰のヤドカリのユニークな動きに楽しくなった。
ふっと腕を掴まれてびっくりすると、そばに秀樹さんが来ていた。
海面に顔を出してとジェスチャーするのでその通りにする。海から顔を上げると直ぐにマスクを上げられる。
「 え?何?」
とシュノーケルを外すと、
「 なんで一人でいるの、心配したじゃないか 」
どうして怒ってる?なんと答えたらいいかわからなくなって黙って下を向くと、
ぐいっと頤に手をかけられ真正面から見つめられる。
「 葉ちゃんがクマノミ見たことないからって、ニモ見たいと言ってたから、いそうなところに連れてっただけだ 」
なんでそんな言い訳……
海水がしょっぱくて目が潤んだだけなのに、秀樹さんはその場で立ち泳ぎしたまま僕を抱きしめる。
「 バカ、そんな顔すんな 」
大きい波が来て僕らはそのまま波に揉まれる。再び海の上に顔を出した時にはもう秀樹さんは僕から離れていた。
こんなに一緒に過ごしていたのに身体を合わせたのは初めて、その生々しい肌の温もりにドキドキする胸が止まらなかった。
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