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第7話 釣ろう

七、 ー 釣ろう ー でも岩場に行けば結局僕は一人で。 熱帯魚を見つけては追いかける葉ちゃんをからかう秀樹さんになぜかイラッとしながら、シュノーケルがあまり得意じゃなさそうな要さんとやっぱり釣りにする?という話になった。 「 人生は旅、目的なんかない。 釣りもそう、垂らしたものに食いついてくれればそれがいい 」 要さんの言葉が胸にスーッと収まる。 なんでこんな良い人と秀樹さんは別れたのかな…… 「 おーい、ハルト〜〜 引いてる引いてる 」 太い指に手を握られて、慌てて釣竿を握り直す。 「 前、前 」 「 え?あ?掛かった 」 ちっともかからなかった僕の竿に魚が掛かった! 「 うわ、重い!」 「 引きが強いなぁ なんだろう、鯛でも掛かったか?」 要さんの太い腕が僕を後ろから支え釣り上げた魚は、 「 えー!魚網だったの?」 もうおかしくておかしくて、ボロになった海草だらけの網が釣竿の先にひっついているのをひとしきり笑いながら、要さんは後ろから僕をしっかりと抱えたままだった。 「 どうした?」 という、不機嫌そうな秀樹さんの声と、 「 へー 」 という葉ちゃんの呆れたような声。 なんで?この二人の態度ってなんだろう。 要さんがゆっくりと身を起こし、 釣りの成果を簡単に伝えると、 必ず茶々を入れる秀樹さんが大人しい。 葉ちゃんもいつもならワクワクしながらクーラーボックスを覗くのに…… なんともへんな雰囲気だな。 僕の方はさっきまでのいじけた気持ちが魚網に取られた釣り針と一緒にどっかへ飛んでいってた。 「 お腹、空かない? 」 「 お昼だな 」 「 サンドイッチ作るか 、 それとスパークリングに フルーツ浮かべて酒ポンチにするか」 お酒の話になると通常運転の秀樹さん。 「 手伝う、パン持ってきたんだ 」 と一緒にキャビンに降りると、急に僕の腕を引っ張っるからよろけて二人でサイドのベッドに突っ込んだ。 何、秀樹さんどうした? 「 キスした?」 「 え?何?」 「 なんでもない 」 と、身体を起こすとクーラーボックスにしゃがみこむ秀樹さん。 「 はい、ロールパン、ハムとチーズとマヨネーズ、ピクルスも持っていって ! あれ、マスタードどこだろ」 腕に持たされたサンドイッチの メンツを持ってステップを上がる時、気がついた。 さっきのは要さんとキスした?ってこと? 腹減ったと連呼してる所を見ると機嫌が直った葉ちゃんは濡れた身体を拭きもせず要さんに絡みついてる。 なんなんだろう。よくわかんないよ。 僕らは秀樹さんの手筈通り、スパークリングワインに器用にグレープとパイン、白桃(これは黄桃じゃダメらしい、秀樹さんのフルーツうんちく)プラス ミントの葉を盛り付けた容器を囲んで、 ロールサンドを頬張るという贅沢。 シュワシュワした喉とさわやかな酸味の残る甘い舌。 270度の青空と180度の潮の香り、心地よい風、誰にも文句言われることない日に乾杯! そして今夜も僕らは月夜が美しい波浮港に戻った。

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