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第3夜 ①
(遥視点)
───午後9時40分。
いつもなら仕事をはやく切り上げ、悠と過ごしているはずの時間に、俺はまだ職場にいる。
静まり返ったオフィスにキーボードの音がカタカタと響く。
ハァ‥‥。
自分のため息の音が、やけに大きく聞こえる。
何故こんなことになってしまったのかというと、話は水曜日に遡る。
『ごめん遥!急に出張入って、金曜日会えないわ 。 無念‥‥』
というメールが悠から送られてきた。
普段メールなんて滅多に来ないのに、いきなり来たからなにかと思えば。
俺は『わかった。気をつけていってきてね』と返しておいた。
我ながら淡白な返事だと思った。
しかし、わかった、なんて物わかりの良い風に返事をしたが、実際は不満で仕方ない。
悠がいないと寂しい。こんなことになるのなら、仕事なんて辞めてしまえ!とまで思ってしまう。そして、こんな子どもの我が儘みたいなことばかり考えている自分に、辟易とする。
悪循環だな‥‥。
気分を変えるために外の空気を吸おうと、席を立ったそのとき。
ブーブー ブーブー
携帯から、無機質なバイブ音が鳴る。
相手は、出張に行っている悠だった。
「もしもし?」
『遥?今、話せる?まだ仕事中だったか?』
「ううん、大丈夫。もう帰るとこ。」
悠との会話を終わらせたくない一心で、咄嗟に嘘をついてしまう。
『よかった。でも、職場で長電話はちょっとアレだろ?家帰ったらかけ直してくれよ。』
「わかった、すぐ帰る!」
悠と電話をしながら、俺は帰宅の準備を始める。
『じゃあ、また後でな。愛してるよ、遥』
「‥‥っ」
プッ ツーっ ツーっ
動揺で何も話せないでいるうちに、電話が切られた。
突然の愛の告白に頬が上気する。少し低めの掠れた声から、先週の情事が思い出される。
その濃厚な記憶に、下半身が一気に熱を持つ。職場で半勃ちさせていることに、少し後ろめたさを感じる。
しかしそれ以上に、悠との行為の記憶によりいっそう脳を犯され、ついに完全に勃起してしまった。
俺は鞄で股間を隠しつつ、いそいそとオフィスを後にする。
一刻もはやく、愛する人の声が聞きたくて、足取り軽く、俺は帰路を急いだ。
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