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第6話
「まだ、朝一ですけど」
「後で代休やるから、勘弁しろ。単独行動は俺はできねえからな」
乗り付けていたらしい高級スポーツカーのドアを開くと、助手席にシェンを押し込む。
とても辺境警備隊の給料で買えるような代物ではない。
勲章の賞金にしてもな、こんなのは無理だろう。
落ち着かなそうにシェンは車の中を眺める。
「今回の逮捕劇でシンジケートが動いた」
「つうか、アンタ、検問敷く前から、密売のこと最初から分かってただろ」
「まあな。情報は提供してもらってたよ」
アクセルを踏んで荒っぽくハンドルを切る様子を眺めて、やっぱりとシェンは呟く。
「俺様は優秀だからな、抜かりはない」
カチカチと空間画面を操作して、資料のようなものを出すと、シェンに中を見ろと視線で合図する。
「犯罪シンジケートは、大体が裏で繋がっている。俺が潰したいシンジケートも今回動いたところに関与してるからな」
これは取り逃したくないと呟いて、華麗な手捌きでシンジケートの関連図を見せる。
「はあ、なんか難しそうでわかんねえけど。それにしてもすげえ車とその設備、アンタ金持ちなんだな」
ここまでの設備や車を用意するだけの資金はどこからくるのかと胡散臭いなとちらと見遣る。
「発明品の特許を売った金を資金にして、会社をいくつか経営している。別に俺様の力の1割も使わない労力だが」
大したことではないと統久は言う。
「へえ。そんな金持ちなら辺境警備隊にはなんで入ったんだ」
きつくて苦しくて給料は安いし、命の保証もなくあまりいいことはない。
「昔、俺が甘ちゃんだった時に押さえられたシンジケートを取り逃した。そいつを一網打尽にしなければ、前には進めねえからな」
だから勲章も要らないし、地位も金も要らないのだと告げて、作戦を説明しだす。
確かにこれだけの財産があるならば、地位も金も必要はないだろう。
あまりの体格の良さに気がつかなかったが、非常に整った顔だちだ。
「才能も容姿も全部が揃っているなんて、羨ましいな。オメガじゃなきゃ完璧なんじゃないか」
蔑んでいるわけではないが、そういう言い方になったのに、シェンはまずかったかなとちらと顔色を伺う。
「ああ、神様には愛されてるからな。俺は全部を持ってるよ。生まれも育ちも特権階級で、子供の頃から何でもできた。ついでに子供も産めるなんて、凄すぎるだろ。発情期さえなけりゃな、宇宙征服も夢じゃなかったんだがな」
どこまで本気か分からないセリフを吐きながら、するっと路地を抜けて車を停めて、降りろと視線のみで合図する。
「本当なら俺ひとりでこなせるんだが、いつ何が起きるか分からん身体なんでね」
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