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第16話

「気がついたか」 頭の中がぼんやりすると思いながら、統久は覗き込むシェンに焦点を合わせて頷く。 アルファに抱かれた後は、妙に身体の調子が良くなる。普段から抑制剤を飲んでいないので、意志のちからでフェロモンを抑制していることもあり、それがアルファに抱かれた後は勝手に抑えられる。 「あ、ああ.......」 声はガラガラで目の前の部下には醜態を晒したなと思いながら、額を掌で覆う。 「遠野、は」 「会合の時間とやらで帰ったぜ。部屋くらい片付けろっての」 不機嫌に眉を寄せているシェンの様子に嫌悪感がないのを確認すると、付き合わせて悪かったと告げた。 「アンタが帰れと言ったのを、帰らなかったのはオレだけど」 何謝ってんだと不思議がる様子に、重たい身体をベッドに沈めたまま、そうだったなと漏らした。 「いけ好かない奴だったな」 「遠野か?」 「別にアンタがしてることに口を出すつもりはないけど、人をモノのように扱って腹立つな」 シェンはトランクの中身を確認して、思い返すかのように苛立ちを口にした。 「アイツだけじゃないさ。大抵のアルファはオメガをモノとしか思ってはいないよ。別に慣れているし、奴とは長い付き合いだ」 「子供を産む道具とか」 「いや、オメガは稀少だからね。手に入れることがステータスなんだ。美しい綺麗な男性型も多いしね。人身売買が絶えないのもそのせいだ」 綺麗で美しく、ともすれば女性型よりも力がないオメガは攫いやすく御しやすい。 攫って調教してアルファへ多額の金で売りつけるのは、良い商売である。 「アンタはその心配はなさそうだけどね」 「世の中には変わり者も多いからな、余計に珍しがられることもあるぞ。実際売られたこともあるしな」 普通に憎まれ口を叩くシェンに、統久は安堵したのか疲労を滲ませた表情を浮かべた。 「まあ、他のしらねえけど。アンタは相当やらしかったな」 「褒め言葉として、受け取っておくよ」 「じゃあ、今回の潜入の成功報酬にオレにも遠野と同じものが欲しいな、と言ったら?」 トランクの中にあったデータの中身を確認しながら、事も無げに伝えるシェンに、統久は驚いたように顔をあげる。 「.....冗談」 「いいだろ、命懸けの仕事をするんだ。それくらいの役得があっても、さ」 敵の本拠地への潜入である。 かなりの大勝負になる。 「まあ、こんな体でいいならくれてやるよ」

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