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第17話
「独善であそこまで出来るか」
偽造IDを通して宇宙船に乗り込むと、シェンは送り出した上司のことを考えつつ個室へと入る。
危険な任務だとわかる。経歴を考えれば、このコロニーの部隊には自分ぐらいしか適任はいないことも分かる。あらかじめ目星をつけて動いてはいるのだろう。
誰かを救いたいといったお為ごかしは言わなかった。
ただ自分が前に進みたいとだけ。
自分たちを裏切って見捨てたくせに、報奨を受け取ろうとした上司をオレは殴って謹慎処分にされた。
そんな奴とは、あの男が違うことは分かっているのに、感情のどこかが拒否している。
命じるだけの能力がない奴とは違う。
きっとこの潜入も、奴がオメガでなければ自分でやっていたことなのだろう。
「成功報酬もあることだし。別に悪い話じゃない、しかも報酬は全部アイツの身切りだしなあ」
ひとりごちで外を眺めて、データを再確認すると一読してからデリートする。
証拠はすぐに消し去るのが潜入の鉄則である。
「まあ、終わった後のお楽しみのために頑張りますか」
「へえ。シェルは、中央が出身なんだ。こんな大企業でも辺境だから不安だよね」
本日入社の社員は集められて、説明を受けているが赤茶の髪の人懐こい男がシェンに声をかけた。
偽造IDの名前はシェル·イライズ。
最初の発音が本名に近いだけ間違うことも少ないだろうという配慮だろう。
「ああ、恒星が近いから驚いた」
自分の偽のプロフィールはしっかり頭に叩き込んである。不審がらせずに、目立たずに味方を増やすのが潜入の鉄則である。
「紫外線もきついしね。イヤになるよな。まあ、この運輸会社はかなりいい給料だから、つられてきたんだけどね」
話半分に聞きながら、入社の説明が終わったことを確認して、説明した男に手をあげて質問する。
「よく運ぶ品物はなんですか」
麻薬のシンジケートが運輸業とかホントにありえないくらいわかりやすいだろう。
「冷凍肉かな。腐ったら最後だ。こころして運ぶようにな」
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