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第19話

運送会社に似合わない豪華な執務室に呼ばれて、シェンは周囲を見回しながら監視カメラやドアと窓の位置などを確認して、おずおずとしたていを装いながらソファーに座る。 「君はすごいね。入社そうそうに頭角を表す人間は数少ない。アルファ性かとも思ったが、普通のベータなんだね」 この男は性差をする人間なのだなと、シェンは肩をそびやかせながらどうもと口にする。 「運転が好きなので」 当たり障りのない言葉を返すと、彼はデータカードの入っているケースを差し出す。 「成功報酬は、1回1万ダラー。給料の他に払おう」 運び屋で1回1万は破格の安さだが、多分給料の5倍ならホイホイ引き受ける者が多いのだろう。 「あのー、危険なんですかね」 少し不審がる雰囲気をだして、上目遣いで聞いてみる。これだけで臆病者の印象はつくはずだ。 「危険はないよ。ちょっと特殊で、入港検査後、30分以内に届けるのが必要なんだよ。その後は車を置いて歩いて戻ってもらう。わかるかい」 全くわからないが、検査を受けて2時間は結果判定に時間がかかるものがある。 それは新種の麻薬である。 既出の麻薬であれば、その場で判定されるが新種は適合性を調べるのに時間がかかる。 通常は足止めをされるが、急いでいる場合はIDをとられて自由を与えられる。 偽のIDだからいいが、まずい話だ。 「あの、オレ、捕まるとかまずいんですけど」 「ああ、大丈夫だよ。君とは別人のIDをそのケースに入れてあるからね。それを渡して、運べばいい」 「中身はなんですかね」 「君には知る必要がないよ。大丈夫、君の腕ならちゃんと運べるよ」 諭すように言われて、シェンは男の薄い毛の生えた頭を見下ろす。 「お断りとかできますか」 安定を望むようにおずおずと問いかけると、支部長はにこりと笑う。 「こんなチャンスを棒にふるような、向上心のない社員は必要がないと判断するが.....。そのうえ君は未来を失うことになるよ。イライズ君、そうしたら君も困るだろう」 ちらとこれみよがしにシャツを捲ると、支部長が示した先に、タトゥーが見える。マフィアの証のものである。 断れば、殺すということだろう。 「わかりました。経路などを確認して任務遂行いたします」 わざと震え上がりながら、渡されたケースを握りしめてシェンは首をたてに振った。

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