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第33話

「.....こんなやり方聞いてねえ、ですよ」 首筋を押さえてシェンは目の前の男を睨みつけた。 ヤバいな。 どんな仕組みで受け取り先でしか回収できないのかわからないが、カプセルとは違うから時間で中身が漏れ出すのではないだろう。 いつでも好きな時に発動できるというわけだ。 「逃げられたくなかったのでね。イライズ君、君の恋人だが、警官なんだよ」 シェンは驚きで目を見開く。これは演技ではない。 そこまで突き止められていたのか。 「ハメられたんだよ、君は。可哀想にね」 心底哀れまれるように言われて、シェンは自分のことが疑われていないことを知る。 「そんなこと、ないですよ。聞いたことないです、オメガの警官だなんて.....ハイルはたしかにオメガなんです」 必死に純情の猫をかぶって声をあげると、本部長は空間スクリーンに見慣れた制服を着た統久の画像を映した。 「.....ハイル.....」 そこまで掴まれているってのか。 確かに潮時だ。 しかし、体内に入れられたものをどうにかしなくてはならない。 「その名前も偽名だよ。彼は、警視総監鹿狩久樂(くだら)の息子で鹿狩統久、オメガであってもコネと有能さで警官になっている。特権階級の生まれの男だ。君が身請けなどして救うに及ばない」 初めて聞く統久の出自に驚きを隠せず、シェンは目を見開く。 アルファの特権階級の男達は、オメガと番うことが多く、オメガの半数はその御曹司であるという。 残りの半数はベータとオメガの子や、アルファにやり捨てされたオメガの子供で比較的貧しい。 自分でお坊ちゃん育ちと言ってたか。 別に隠されていたわけではないが、なんとなく悔しい気持ちでグッと拳を握る。 それを憎しみととったのか、本部長はにやりとほくそ笑んでシェンに耳打ちをする。 「君の気持ちを利用するような、ビッチな警官だ。そんなに心を痛めることはない。君も復讐したいだろ?」 「.....復讐?」 「私たちの取引している組織に、オメガの人身売買をしているところがあってね」 ひそりと声を殺してつげる瞳に、イヤな光をみつけてシェンは眉を寄せる。 「彼は.....オレのものです、だ、だれにも渡さない」 「わかってないな。全てを矯正して、奴隷として一生君のモノになるように、手配してあげるというんだよ。だから、今回の仕事を完遂してくれ」 本部長の言葉に、躊躇うシェンの耳に彼の声が響いた。 『作戦変更するよ。シェン、今回は兵器の受け渡しの任務を遂行してくれ。その後は、俺はヤツらの策にハマってやろう』

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