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第38話
『丁度近くでテロが起こったから、便乗して地域の奴らを集めて一網打尽にしてみた。お前の名前を名乗っておいたから、あそこらへんでは有名人だぞ』
コテージに向かう道すがら、シェンが運送機で迎えにいくと乗り込んですぐに通信機を通して統久に告げられる。
また余計なお世話といいたいが、盗聴されていそうで聞くだけだ。
「旅行に誘ってくれてありがとう」
チャイナ服に身を包み柔らかい笑顔を浮かべる統久は、普段とは別人である。
通信機の内容と表情が合ってないなと思いながら、恋人に見せるような甘い表情を作る。
「素敵なコテージでな、会社が仕事のできるオレにご褒美を出してくれたんだ」
「俺を連れてきてくれて嬉しいです」
「あと、君を身請けする金が用意できたよ」
頑張ったからねと告げると、統久はわざとらしく眉をキュッと寄せて俯く。
手が軽く震えているが、盗撮されててもそこまでの仕草は拾わないだろう。
演技がまるで映画の主演男優賞俳優並に素晴らしい。
「.....ご、ごめんなさい。この間お金、値上がりしちゃったんです」
「え.........」
シェンは暫く黙り込むと、グッと唇を噛み締める。
『さっきポケットに突っ込んだ指輪に、粒子爆弾をしこんだ。それを俺につけてくれないか。あと、お前の指輪が起爆スイッチになってる。意識があるうちに、なんとか施設にばら撒く』
思わず目を剥いてシェンが統久を見返すと、顔を軽く手のひらで覆って、
「ごめんなさい。頑張ってるシェルに言えなくて」
健気な装いで震えてみせる姿には、わざとらしさは見えない。
「いいよ.....、もう少し頑張るから。早くハイルと一緒に暮らしたい」
美しい森が見えて着陸すると、鳥がばさばさと激しく飛び立つ。
機体から降りて木々の隙間から刺す柔らかな陽光に包まれた白いコテージの前に2人は立つと、シェンは誘うように統久の腕を引いた。
「自由になったら、こういうところに住みたいと思って、用意したんだよ」
「う、嬉しいです。ホントに素敵だ」
心底喜びに溢れた笑みを浮かべて抱きつく統久に、演技とは言え思わず胸をつかまれそうな気持ちに陥り、シェンは軽く首を振って抱き寄せた。
何でも出来るやつは本当に厄介だ。
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