39 / 62

第39話

コテージは簡素ではあるが、綺麗な材質で出来ていて中の調度も凝ったつくりである。 牢獄ね。 周りを見回しながら中に入ると、シェンは荷物を置いて丸太を半分に切って出来た椅子に腰を下ろす。 「こんな自然に溢れたところ、初めてきました」 感動したような声をあげて、シェンの隣に座って腰に抱きつく仕草に思わずどきりとしながら、ぎこちなく笑ってみせる。 人を騙す時の普通の人間の心理なんてなかなかないからなあ。 潜入専門でやってきたので、演技はお手の物だが、演技の中の演技となるとかなり内容が難儀だ。 演技がうまくできるかどうか。 シェンはそのまま統久の手をとり、指先に唇を押し当てるとズボンのポケットの膨らみを取り出して、ケースをとりだす。 『起爆スイッチの方は石がついている』 ケースの中身を確認して石のついてない金属の指輪を引き抜くと、ゆっくりと統久の指へと嵌めて、石のついている指輪を自らも嵌める。 「まだ、早いかもしれないけど.....約束のあかしだ」 「ああ、シェル、夢のようだよ。ありがとう。嬉しいです」 するっと腕を伸ばして、シェンの首筋に腕を巻き付けると、統久は唇を軽く押し当てる。 『通信に気づかれると厄介だ。ここで、この端末はオフにしておく。指輪の爆弾を撒き終わったら、起爆スイッチの方が光るから.....それが合図だ』 「.....ハイル、そんなに抱きついたら苦しいよ。.....そんなに、早急にしたら間に合わない」 「オメガってね、発情したら色々わからなくなっちゃうんだ。だから、その前に.....話をたくさんしたいのだけど.....シェルが嬉しいことばかり言うから」 耳元で囁かれる睦言はそのままの意味ではないだろう。 「だから忘れないように.....強く抱いて」 誘うように指先がつっと脇腹から下腹部へと降りていき、強い眼差しがシェンを捉える。 記憶をなくす前に会いにこい、か。 シェンは誘われるがままに、丸太のイスの上に上体をあげて彼にのしかかる。 「何もわからなくなるくらいにいやらしいアナタも見てみたいけど」 チャイナ服に腕を伸ばして、視線をとらえながら衣服を剥いで、首に巻かれた防護帯に唇を押し当てる。 「全部オレのものにしたいけど.....オレはベータだからな。それはできない」 以前聞いた遠野の言葉を思い出す。 アルファに庇護されれば、苦しまずに済むのにそれができないくらいに優秀で可哀想なひと。 だけど庇護することすら、できない。 「いいよ、離れないでいて.....シェル」 甘い匂いを発する身体に鼻先を寄せて、シェンは頷いた。

ともだちにシェアしよう!