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※第44話
ストレッチャーで運ばれている今だけがチャンスだろう。身体を抵抗するように暴れさせながら、腕を伸ばして少しづつリングのボタンを押していく。
「ッ、はァ、は、あ.....なんで、こんな、こと」
「それは、君が1番分かっていることじゃないか。純情な青年を騙して潜り込ませて.....酷い売女だな」
じっと目を見据えてくる男は、すっかりシェンの演技に騙されているようである。
「.....ッしら、ない」
「まあ、真実がどうでもら構わない。君がそっくりさんだとしても、記憶を消しておけば憂いはない」
首を振り続ける統久に、彼は笑いかけてずんずんとストレッチャーを奥に進める。
このまま、大ボスのところまで行ければこちらの思惑通りだ。
「流石に、彼と面通しすれば真偽はわかるからな」
スイッチが強へと切り替えられて、思考が覚束無くなっていくのがわかる。
統久は、廊下の壁にリングを向けて爆弾を設置しながら、身体を跳ねさせる。
シャーと音が響きストレッチャーがエレベーターに乗せられ、上昇する。
そして、広いフロアへと転がされて執務室へと連れてこられる。
中はぐずぐずになっているが、まだ意識は保てる。
リングを何度か押して、朦朧とする視界に部屋の主の顔を見上げた。
「.....発情期ではないようだね、促進剤は飲ませたのかい」
ゆっくりと歩みよる顔には、見覚えがある。
幼い時に父の元を訪ねてきていた。
「効いてないですかね。力は出ないようですけど」
「覚えてないかな。私はウォンバット.....といっても、君が小さい頃の話だからな」
そうだ、ウォンバット·テイラー極東管理官だ。このあたりの辺境の警備官たちの長である。
この工作も全て報告済で、大体の計画は上に伝えてある。
手回しがいいわけだ。
こんなのが大ボスならば、捕まえられるわけが無い。
シェンのことは報告に入れておかないで良かったな。
「ッ.....な、ぜ.....ウォンバット管理官、あな、たが、ッンンンッ、ッふ」
声を出そうとすると、スイッチを絶妙に変えられて声がうわずり喘ぎ声に変わる。
「優秀な君もやはり所詮はオメガでしかないよ。オメガは金になるからね。私は、いわゆる派閥争いに負けて辺境などに飛ばされたからね、金が必要なんだよ」
分かるよねと呟いて、統久の頬をゆっくりと撫でる。
「まあ、煩わしい総監の息子をここでいたぶってあげようとね、ずっと計画を聞いてから君がくるのをたのしみにしていたよ」
にっこりと笑うと顔を寄せてくるのに、甘い匂いが充満してくるのを感じて、統久は指輪のボタンを長押しすると、すとんと指から床に落とした。
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