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第49話

IDを翳して中に入ると、普通の収容所とは大差なく厳重過ぎる警備ではない。 ナノマシンの端末で位置確認をすると、収容されている場所も、通常の房のようで奪還するのもむずかしくはなさそうだ。 何食わぬ顔をしながら向かって歩いてくる警備兵に軽く頭をさげて、位置を探りながら歩く。 カチカチと光の点滅が示す場所が爆弾の位置のようだ。爆破する順番を間違えたら大惨事である。 他の房にいる囚人は全員助け出さなくてはいけない。 そのための援軍は呼んだが、中に入るのは至難の技だろう。 まあ、ヤツらのことだからテキトー言ってガンガン攻め込んでくるだろうが。 辺境の男たちは、基本的に短気である。 待ってろなんて、指示きかないしな。いう気もない。 奥からいくか。 爆弾が設置されている一番奥にターゲットを当てると嵌めていた指輪のボタンを押す。 ぐわんという激しい音が響くと同時に、シェンは駆け出して房の横にある非常用のボタンを指でぶちあけて、ぐいと押す。 【館内放送、館内放送、執務室で爆発、火事発生。館内の者は外に退避せよ】 ウィーンウィーンと激しい警告音が響く。 向かうのは制御室だな。 電気が通っていれば、火事を食い止めるのも容易だ。 混乱しまくってもらわないと、仕事がしづらい。 執務室の脇の廊下の爆弾を再び爆破させてから、シェンは地下に駆け下りる。 「おい、非常ボタンが押されたぞ。早く外に出ろ」 外に向かおうとする兵士に呼び止められ、シェンは横に首を振る。 「自分、予備電源を入れるように、監査から言われました」 すらっと嘘をでまかせで平然と告げると、男はそうかと呟いて天井を見上げる。 「爆発の原因は不明らしいからな。コンソールルームは危険だ。気をつけていけ」 敬礼をして階段を駆け上がっていく背中を見送り、シェンは制御室へと入ると、予備電源に切り替えてから主電源の基盤を銃で撃ち抜く。 予備電源はもって10分だろう。 10分で中隊長を確保して、囚人を外に出して全部爆破させる。 危険な賭けは元よりだ。 ギャンブルは好きじゃないんだけどなあ。 シェンは外に出るとエレベーターに乗り込み、3階の生体反応がある部屋へと向かう。 爆破の音は聞こえているはずなのに、生体反応に動きはまるでない。 生きてはいるが、動けないか。 または、記憶が消されて逃げることも思いつかないか。 部屋の房は非常ボタンで開いていて、中に入るとふわりとフェロモンの濃い香りがしてシェンは自分の鼻を抑えた。 「だ、れ」 問いかける声は、統久の声で。 だけど、その声はまったく聞いたことがないような不安でいっぱいで心細く震えていた。

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