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第51話

何度も倒れたウォンバットを振り返る統久の腕をグイグイと引いてシェンは駆け出す。 煙と怒号が追いすがる。 「な、なあ、どこいくんだ」 捕まったら怒られるとばかりに、必死に走る統久は顔を青ざめさせている。 普段彼は常に飄々としているので、シェンは物珍しくなってからかうように愛の巣と呟いた。 「え、と。アンタは俺のご主人様なのか」 少し考えながら首を傾げる様を見ながら、前から取り囲もうとする兵士の脚をレーザーで撃ち抜き、近くの爆弾を破裂させる。 床が響くのと同時に壁が崩れ、熱材が燃え始める。 「ご主人様、ね。そうね、そういうのも愉しそうだ」 「ウォンが、ご主人様が迎えに来るって言っていたから」 半笑いのシェンを訝みながら、倒れてきた壁を無意識に避けて走る統久の動作に、シェンは本能はすげえなと感心する。 近くに燃料タンクがあったのか、燃え移り激しく始めた炎と、パチンと電気が遮断されたのに補助電源装置のバッテリーが切れたことを知り、シェンは近くの窓を銃の尻で叩いて割る。 エレベーターは使えない。 「おい、えーと、統久さん。窓から飛び降りるぞ」 「なんで」 「火の周りが早いからな。一酸化炭素中毒で詰む」 外を見ると混乱に乗じて乗り込んだのか、呼び寄せた援軍が囚人たちを保護しているのが見える。 事情を知らない警備隊たちも、囚人たちの確保を行っているようだ。 「こんな高いところから飛び降りたら死ぬよ」 窓のしたを見下ろすと、どうやら地上まで30メートルはありそうだ。 腰につけている縄で統久の腰を括る。 「ホントに、今のアンタは使えないな」 溜息を漏らして、縄を握ったまま窓枠を指さす。 「先に飛べ。オレが縄を掴んでいてやる」 「え、飛ぶのか」 信じられないという表情を浮かべながら、統久は窓枠へと足をかけた。 足音が聞こえてくる。 ヤバい。 「早くしろッ」 「見つけたぞ、侵入者!!」 声のする方にレーザーガンを撃ち、飛び降りる統久の縄をぐいと強く掴み、落下速度を緩める。 ひゅんッと音がして、目を向けると股間を真っ赤に染めたままのウォンバットが立っている。 「ッて…………」 利き腕を撃たれて、手にしているレーザーガンがうまく握れなくなる。 ヤバいが、両方離せないな。 片方の腕に握った縄を少しづつゆるめながら、撃たれた腕でレーザーガンの銃口をなんとか制御する。 「シェン·リァウォーカー、カルハード作戦の生き残りとは、鹿狩の抜け目なさには本当に頭がさがるよ。しかし、どうする?鹿狩は記憶がないぞ、君の証言など誰も信じまい。どうだ、私につかないか?」 顎をくいと上げて、ウォンバットは銃口をシェンに近づけたまま、唇を引き上げた。

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