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第52話
「組織自体を裏切ってる奴についても、すぐに信用なぞ裏切られンのは目に見えてる」
ギリギリと掴んだ縄の重さに、奥歯を噛むと不意に縄の力が緩む。
まさか、落ちたか!?
シェンは冷や汗を浮かべて、慌てて視線を窓の外に向けると、別の窓へと手を伸ばして掴んでぶら下がっている統久を見つける。
半端ない運動神経だな。
ホッとしたところで、統久は記憶がなくても状況判断したのか、下の階の窓をガンガンと割ると中に入り込んだようだ。
中は一酸化炭素が充満しているって言ったのを聞いてなかったのか。
シェンは、目の前のウォンバットに銃口を向けたまま、下の階への階段へと向かって駆け出す。
ったく、手が掛かりやがる。
解除方法をしち面倒くさくした自分にも問題はあるが。
「逃がさないぞ、シェン·リァウォーカー」
フルネームを呼びながら散弾銃を撃ってくるのをかわしながら、廊下の曲がり角に隠れる。
確かに統久がいなければ、生き残ったとしてもウォンバットのシナリオどおりになってしまう。
一兵卒の意見は通らないものだ。
足を狙ってでも、どうにか動きを止めないとな。どちらにしても、死なせてしまうのは証言も有耶無耶になるし良くないだろう。
身を屈めてこちらを狙っている男の足元へと照準を定める。
「本来ならば、カルハード作戦の英雄は君だろう。上官や他の上の人に逆らうから、いつまでもそんな地位にいないとならない。ベータなのもあるだろうが」
身体を引き摺りながらこちらを警戒している男に死角を探すのは難しい。
統久が仕掛けた爆弾は絶妙に炎上するものの近くに撒いたのか、轟々と火の手かあがっている。
時間は、ない。
「オレは、英雄なんてなりたくない、んだよ」
照準に向けてパキュンキュンと実弾を放つ。
流石に、脚はビーム防護を着ているだろう。ビームよりは発射までの時間はかかるが、この距離ならかわせないだろう。
「浅はかだな。リァウォーカー」
身体をぐいと捻って足元へと銃弾を受けながらも、ウォンバットはシェンの眉間へと銃口を突きつけた。
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