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第53話

万事休す、か。 構えていた銃口をそのままに、逃げ場などない状況に舌打ちをして次の衝撃を待つ。 このまま、人生終了とかつまんねえな。 全部爆破しちまうか。 指輪を握り締めて全ての爆弾を起爆させる。 激しい揺れが響き渡る。 キュォーッーン 「グアッ、ウッ」 レーザーの照射音が響き、シェンは覚悟に瞼をきつく瞑ったが、同時に呻き声をあげたのはシェンではなく、ウォンバットの方だった。 レーザーガンがカランカランと乾いた音を響かせて床を滑る。 ゆっくりとした所作でそれを拾いあげたのは、目の前に立つシーツだけを纏った統久である。 シェンは目を見張ると、腰をあげて体勢を整える。 記憶が戻った、のか。 ゆっくりと、統久は手にしたレーザーガンの銃口をウォンバットに向けるとにっこりと笑う。 「ウォン、これで人を撃ったらいけないんじゃなかったかな。俺はご主人様が迎えにきたから行くからね」 統久が撃つ気がないのを悟り、ウォンバットは腰をあげると統久から銃を奪おうと手を伸ばすが、統久は、軽く払って躊躇なくウォンバットの腕を撃つ。 「ッうがああ、お、まえの、き、記憶は消したは、ず」 首を横に傾げて統久は胸を張る。 「何言ってるのか分からないけど、俺の記憶力はいいよ。だってウォンが教えてくれたんじゃない。ご主人様は絶対だって。お迎えにきてくれた人が俺の大事なご主人様だって」 どうやら、統久の記憶は戻っていないが、ウォンバットが施した刷り込みが仇になったようである。 シェンはのたうち回るウォンバットにの肩口に、ショックガンを撃ち込む。 「ーーッぐ」 ぐったりとしたウォンバットの身体を抱えると、統久に向けて非常口を指さす。 「逃げるぞ、火の手が回る」 「下の階は火の海だったよ。さっきみたく窓からもう一度飛び降りた方がいい」 「じゃあ、そうするか」 重たいこの荷物はどうするかなと、シェンは考えを巡らせながら、窓へと向かった。

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