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第55話
「なあ、もう我慢できない」
後ろで唇を尖らせて文句を言っている統久に、鼻栓を装着しながらシェンはため息をつく。
これが普通のオメガの反応なのだろう。
まあ、傍若無人な性格はいじられていないのが厄介と言えば厄介だが。
戦闘機を駆りながら、比較的栄えていそうな惑星を探す。
「俺、ここでしてもいいぞ」
「いいから黙ってくれ。ちゃんと探すから」
思わずイラついて声を荒らげると、統久は黙り込んで深々と息を吐き出す。
「…………懐かしいと、思ったから。初めて会うご主人様なのに、すげえ懐かしいって思って、だから、早く抱き合って確かめたくて」
「……初めてじゃない」
着陸許可を得ると着陸体制に切り替えてから、ちょっと冷たかったかなと気になって、シェンは後ろの席を振り返る。
「辛いか?でも……発情期じゃないんだろ」
「違うと思うよ。毎日同じだから。体が熱くて、いつもたまらない。俺はそういう生き物なんだってウォンが言ってた」
ギュッと拳を握り締めている姿は、何故か庇護欲をそそる。形の良い眉と口元、少しあがった目元は切れ長で鋭いが綺麗だ。
「抑えることはできないのか」
それが普通なら、いつも彼は平然とした顔で抑えていたのだろうか。
「わかん、ない。抑制剤は効かないってウォンが言っていたから、無理なんだと思う」
火照った身体をだるそうに撫でて、身体を起こすと視線を返す。
「……でも、なんとなく止められそうな気もするんだよね、やり方わからないけど」
「そうか」
「あ、着陸完了したよ。早く、早く」
せがむように腕を回して、コックピットが開くやいなや外に飛び出す統久に、シェンは戸惑いながらついていく。
つか、あれだけフェロモン垂れ流しはヤバいだろ。
シェンは落ち着かせるように腰を抱いて、港の一番近くのホテルに予約を入れる。
これが、彼の素なのだろう。
多分このままの方が彼にとっては、幸せなのかもしれない。
元に戻さない方が、いい、かもしれない。
ふと、よぎる感情にシェンは首を横に振った。
オレが決めることじゃない、な。
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