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※第56話
統久はキョロキョロと周りをもの珍しい様子で眺め、漂うフェロモンとシーツを巻いただけの格好に眉を寄せる人達の中を闊歩しながらホテルに向かう。
「あそこにいるより楽しいな」
見るもの全てに目を奪われている様子に、シェンは微笑ましくなるが、軽く息をついてホテルの入口に向かって手を引く。
「……辛かっただろ。もっと早くに迎えに行きたかったが」
会わせてくれると言われたのもあって出方を伺っていたのもあったが、確証が欲しかったのもある。
「わかんない。ウォンは怖かったけど、別に辛くはなかったよ。セックスは楽しいし。ウォンはオメガが嫌いみたいだけどさ」
少し考えながら部屋の鍵をうけとるシェンに、気楽そうな表情で伝える。
楽観的なのは、記憶を無くしても変わらないようだ。
あまり敵のことを悪く言わないのも、なんとなく腑に落ちない。
まあ、それが調教ってやつなのかもしれないが。
自分の服の替えをもってきたが、統久には少し小さいかもしれない。
エレベーターで階をあがって、部屋の鍵を開くと統久はぐいと腕を掴み返して、シェンを引っ張り込む。
「ねえ、いいかげんに名前教えてよ、ご主人様」
首に腕を回して唇を寄せる相手に、シェンは鼓動を早くする。
「シェン……だ」
「シェンね、綺麗な名前だな」
肩で結んだシーツの結び目を掴んで解くと、ばらっと布が床に落ちて全裸の身体が晒される。
ほんのり赤みがさして、欲情した目を向けられる。
「煽るのうますぎるな」
「そう?よくわからないけど、ね」
腕を伸ばして指先で、雄の膨らみを辿る仕草は蠱惑的で、無意識ではやっていないだろう。
淫らな視線を向けたまま、ジッパーを下ろしてズボンを引き下ろすと、身体を屈めて頬を寄せて擦り付ける。
このまま、記憶を無くした彼を手に入れて、ずっとこうしていたい。
などという欲望にかられるが、シェンは軽く首を振る。
きっと、そんなことは彼には不幸でしかない。
「シェン……ねえ、早くほしいな」
囁くように呟くと、下着をおろして勝手に引き出すとさきっぽを唇へと含み、緩やかに舌先を絡める。
「待ては教えて貰わなかったのかよ」
「ん、っむ、ふ……っ、おしえられたけど……好きじゃない」
喉の奥まで頬を膨らませて飲み込み、チュパチュパとはしたない音を響かせて吸い上げる様に、だんだんと昂りが増してくる。
「両脚、開いてみろよ」
声をかけると既に先走りや愛液で濡れた下腹部が顕になる。
「びしょびしょじゃねえか、ホントに堪え性ないな」
低く呟くとシェンは統久の後頭部を掴んでぐいと喉奥を突き上げた。
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