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第60話

シェンは対の指輪を眺めて、相手の意図を探るような表情を浮かべる。 これは本気か睦言か。 「そういうセリフは、運命の番とやらにとっておけよ。オレはベータだからな、アンタを番にはできない」 告げると統久は、手を伸ばして指輪を掴んで、視線を逸らして肩をそびやかせる。 「願望を口にしちまった。気にするなよ。まあ、ーー孕むくらいはできるけどな……。俺は運命の番の種は孕めないから。どんなに、心底愛してたとしても、さ」 カチャカチャと金属音を鳴らして、視線を落として小さく笑う。 「オマエのお陰で目的は果たした……。ありがとう。後はテキトーに任務をこなすけど、親父も最近は早く結婚しろとばかりに見合いばかりさせるし……、アルファはみんな遠野みてえな、どっかいけ好かないヤツらばかりだし」 身体を寄せたままで、見合いしたくないなと呟いてから、統久はシェンに向けて言葉を繋ぐ。 「アンタは運命の番と出会っているのか」 だとしたら、それ以上のものはない。 どんなアルファでもその事実を知って結婚すると言う奴はいないだろう。どう足掻いても、運命の番への執着は消えない。 例え別のアルファと番ったとしても、その執着ゆえに奪われてしまうこともある。 そうすれば、彼も不幸になる。 それは周知の事実だ。 「ああ……。でも、弟だからね。禁忌に触れちまう。つがうなど、できない」 多分違和感はこれだ。 シェンは、ぐっと統久の腕を掴んだ。 どんなに手に入れたいと願っても、彼の心にはずっと運命の番がいるのだ。支配する側にはそんなことはたまったものじゃないだろう。 現にオレも……。 正直すぎるこの人が隠しごとなど出来ないだろうけどな。 「いつか、アンタがそのしがらみを断ち切れたら……これをオレは渡したいと思うよ」 シェンは、統久の手から指輪を奪うと、彼は小さく口元を緩めて笑う。 「しがらみなど、切れるわけがない。だけど、そんな都合のいいことは、誰にも頼めないよな。悪かったな」

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