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暫定ベータ。
それは、一時的にベータと見なされた不安定な性のこと。いずれは性が変わるかもしれない可能性があるとされている。
変化する性は暫定ベータの段階ではまだわからない。だからといって、発情期がこないわけでもないのだ。
アルファとオメガ、どちらの発情期も訪れる。その回数は変化する性に影響すると聞いていた。
「暫定ベータのことは知ってる?」
「一応ね」
「俺、今までオメガの発情期にしかなったことなくてさ」
その時に持っていたのは、オメガ用の抑制剤だった。
それを見て、納得したような表情を浮かべたメグ先輩。
「初めてアルファの発情期がきて、もーわけわかんなくて。アンタがいなかったらヤバいことになってた。ありがと」
「そう……。それは大変だったね」
「はは。まさかアルファがくるなんてな。てっきりオメガに変わるんだと思ってたし」
「じゃあ、もうどっちかわからないんだ」
「まあね。でも回数的にオメガだと思うよ。今後がどうなってくかは知んないけど」
「じゃあ、アルファの抑制剤と鎮静剤あげようか?」
「や、いいわ。どっちみち病院行くし、そこでもらう」
「念の為。ね?」
そう言われてしまっては断りずらい。俺は大人しく頷く。
メグ先輩はそんな俺を見て笑みを浮かべ、そっと撫でてくれた。
「それじゃ、熱が下がるまでゆっくりしててね」
「……いいの?」
「もちろん。キミ、名前は?」
「上園(うえぞの)……遥世(はるせ)。アンタは?」
そう、俺はこの時はまだメグ先輩を知らなかった。
入学したてだったし、なにより、俺は自分の性についていっぱいいっぱいで、ろくに周りを見ていなかったのだ。
メグ先輩は少しだけ驚き、ふわりと笑った。
「俺は桐宮恵利。多分、年上だとは思うけど」
「まじ? あ、敬語」
「タメでいいよ。年上だから、遠慮なく頼ってねって言いたかっただけだから」
「じゃあせめてメグ先輩って呼んでい?」
「いいよ。じゃあ俺はハルくんだね」
なんて言って優しく微笑むから、メグ先輩の印象は「人懐っこい」だった。
これがメグ先輩と、俺の出会い。
ここから関係が始まった。
それから、もう三年という月日が経った。
俺は大学四回生で、メグ先輩は社会人三年目。
まさかこんなにも長く関係が続くなんて、誰が予想できただろう。
メグ先輩が全てにおいて選ばれたアルファだと知って、萎縮しまくり、そのそばを離れようとしたくらいなのだから。
だが、それでもメグ先輩は俺との距離を少しずつ縮めながら、気にかけてくれて。おかげで今、こうしてメグ先輩と俺は一緒にいることができている。
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