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 着替えを終え、カタンと音を立てて棚を閉めた。  この棚も俺用に買ってくれたもの。嬉しいような、申し訳ないような。  苦笑いをひとつこぼし、スタッフルームを後にした。そして、メグ先輩のいるキッチンへと歩みを進める。  改めてメグ先輩との出会いを振り返れば、いかにメグ先輩がいい人がわかるだろう。  こんな暫定ベータを気にかけてくれるのだから。  ……いや、むしろ俺が珍しい暫定ベータだからか。  普段から見守ったり話しかけてくれたのも、俺がいつ発情期になるかわからないから。優しい先輩だ、心配だったのだろう。  バイトに誘われたのも、暫定ベータは不安定がゆえに就職先がなかなか見つからない、と俺が愚痴をこぼしたから。きっと、放っておけなかったのだろう。  もしも俺が暫定ベータじゃなくなったら、どうなるのだろう。  そう考えてみるが、想像するよりも体験したほうが早いと結論づけ、考えるのをやめた。  どうせ、そのうち俺の種は変わるのだから。 「お待たせしましたー」 「はーい」  キッチンへ入り、メグ先輩の背中に声を投げれば、顔だけ振り返って笑顔を返してくれる。  手元を見れば、さっきメグ先輩が洗っていたグラスを拭いていた。もう洗い終わってしまったらしい。 「あー。拭くのは俺がするし、メグ先輩はいいよ」 「じゃあお願いしていいかな?」 「ん」  布巾を受け取り、その仕事を受け継ぐ。  隣を通り過ぎたメグ先輩からは、いつものようなふわりと優しい香りがして、どことなく安心感を覚える。一瞬だけ目が合うと、そっと柔らかく微笑まれた。

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