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残った水場の仕事は俺がやろうと思っていたのに、メグ先輩は拭き終わったグラスを棚へと片してくれている。それくらい俺がやるし、少しは休めばいいのに。
そう言ってもまぁ、メグ先輩のことだ。愛着のあるこのお店を、見えない部分まで最上級のものへと仕上げていきたいのだろう。
以前言っていた、「好きなものほど大切にしたい」というメグ先輩の言葉がふと頭に浮かんだ。
「そういえばハル、今日は夜ご飯食べていく?」
「今日はいいや」
見えているかは知らないが、首を振って答えた。
今のような夕飯の誘いをバイトの日は必ずしてくれる。俺も俺で、一人暮らしをしているから、遠慮なくその誘いには乗らせてもらっているのだ。
メグ先輩の作る料理はもちろん美味しいし、誘ってくれるあたり本当に面倒見がいいのだと思う。
あと、メグ先輩はいつからか俺を呼び捨てで呼んでくれるようになった。ちょっとはメグ先輩の友人として認められてきたのだろうか。
「予定でもあるの?」
「そろそろ病院行こうと思って。最近、ぱったりと発情期がこなくなったんだよなぁ」
「発情期がこないってことは……」
「うん。そろそろ変化するかも」
「そう」
いつから発情期がこなくなったっけ。記憶を遡るれば、三ヶ月前まで辿り着く。しかも、メグ先輩と知り合ってからきた発情期の八割はアルファのものだった。
発情期の種が安定し、その上でこなくなった。となれば、確信してもいいのではないだろうか。
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