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俺は薬袋の入った袋から診断書だけを取り出し、その他をそばにあった棚の上に置いて、ソファーに座るメグ先輩に小走りで近付く。
メグ先輩も本を閉じてテーブルに置いた。
「俺、アルファになれるんだって!」
「アルファ?」
「うん!」
診断書を見たメグ先輩は、少しだけ表情を曇らせる。けれどそれも一瞬のことで、そっか、と微笑んだ。
だが、気分の浮き足立つ俺は、メグ先輩の表情の変化なんて気にもとめなかった。何も知らず、ただ純粋に感じていた疑問を投げかける。
「メグ先輩が俺にフェロモンくれてたらしいけど、いつ俺がアルファになりたいって気付いたの? 俺、言ってないと思うんだけど」
「そうだね、聞いてないよ」
「え、じゃあなんでフェロモンなんか……」
「ハル」
静かな声で話を遮られてパッとメグ先輩を見ると、いつものように優しく微笑んでいた。
俺はメグ先輩の意図が掴めず、 どうかした? と首を傾げる。メグ先輩は両手を広げ、組んでいた足を下ろした。
「おいで」
「え?」
「ちょっと足りてなかったみたいだね」
そう言われて、フェロモンのことだとようやく理解する。メグ先輩は足りない分を注ごうとしてくれているらしい。
なら素直に行くべき? でもメグ先輩に抱きつくなんて、そんなおこがましいことしてもいいのか?
「はーる」
「……っ。失礼しまーす」
こてんと首を傾げて誘うように俺の名前を呼ぶメグ先輩に、敵うわけがなかっ た。
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