15 / 45

(2)

 俺は薬袋の入った袋から診断書だけを取り出し、その他をそばにあった棚の上に置いて、ソファーに座るメグ先輩に小走りで近付く。  メグ先輩も本を閉じてテーブルに置いた。 「俺、アルファになれるんだって!」 「アルファ?」 「うん!」  診断書を見たメグ先輩は、少しだけ表情を曇らせる。けれどそれも一瞬のことで、そっか、と微笑んだ。  だが、気分の浮き足立つ俺は、メグ先輩の表情の変化なんて気にもとめなかった。何も知らず、ただ純粋に感じていた疑問を投げかける。 「メグ先輩が俺にフェロモンくれてたらしいけど、いつ俺がアルファになりたいって気付いたの? 俺、言ってないと思うんだけど」 「そうだね、聞いてないよ」 「え、じゃあなんでフェロモンなんか……」 「ハル」  静かな声で話を遮られてパッとメグ先輩を見ると、いつものように優しく微笑んでいた。  俺はメグ先輩の意図が掴めず、 どうかした? と首を傾げる。メグ先輩は両手を広げ、組んでいた足を下ろした。 「おいで」 「え?」 「ちょっと足りてなかったみたいだね」  そう言われて、フェロモンのことだとようやく理解する。メグ先輩は足りない分を注ごうとしてくれているらしい。  なら素直に行くべき?  でもメグ先輩に抱きつくなんて、そんなおこがましいことしてもいいのか? 「はーる」 「……っ。失礼しまーす」  こてんと首を傾げて誘うように俺の名前を呼ぶメグ先輩に、敵うわけがなかっ た。

ともだちにシェアしよう!