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 診断書をテーブルの上に置いて、座っているメグ先輩の背中に立ったまま腕を回す。するとメグ先輩の腕も、俺の腰に回ってきた。 「立ったままでいいの?」 「メグ先輩の上に座れるわけないじゃん」 「相変わらずの遠慮っぷりだね。じゃあ立ってられなくなったら、その時はちゃんと座ってね」 「立ってられなくなるって?」 「そうなればわかるよ」  立ってられなくなるくらいの長時間じゃないと、やっぱり性は変えられないのだろうか。まーやんはすぐって言ってたけど、そんなに簡単なものではないのかもしれない。  なんて思っていると、どろりと脳まで溶かされそうなくらいの甘い香りに包まれた。こんな香りは初めてで、それでいてどこか馴染みのある。 「あま……っ。これ、フェロモン?」 「そう。俺のフェロモン」 「なんかこれ、知ってる」 「ハルといるときはいつも出してたよ。今日は少し強めにしてるけどね」  メグ先輩から香ってきていたふんわりとした優しい香りの正体は、どうやらフェロモンだったらしい。まーやんの言った通り、メグ先輩は普段から俺にフェロモンを浴びせていたようだ。  でもなんのために?  メグ先輩は俺がアルファになりたがっていたということは知らなかったはずだ。なのに、メグ先輩はフェロモンを出していた。  先程遮られた疑問が、再度胸のうちに渦巻く。 「メグ先輩、なんでフェロモンなんか出してたの?」 「ハルの性を変えるため」 「でも俺がアルファになりたかったって、知らないんじゃなかったっけ」 「それは知らなかったよ」 「……んー?」  会話が噛み合ってるような、噛み合っていないような。なんだが会話が足踏み状態だ。  上手いことはぐらかされんなぁ。こういう時のメグ先輩ってなにがなんでも言わないし、これ以上聞いても無駄かも……?

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