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 身体は熱いままなのに、血の気が引いたような気がした。  まーやんに見せてもらった本の一節が、ぼやけた脳内にハッキリと浮かび上がってくる。  『強すぎるアルファのフェロモンによってオメガの発情が起これば、アルファにはなれず、オメガとして性が確定します。』  ――オメガとしての性が確定します。 「やだ……っ!」 「ハル?」 「いやだっ! 俺は、オメガになんて、なりたくない! お願い、フェロモンやめて……っ」  少し正気を取り戻して重い半身を起こし、縋るようにメグ先輩を見つめる。  けれど、目を見つめているのでさえ耐え難いものだ。この時点でもうすでに手遅れなのかもしれない。  けれど、まだ諦めるわけにはいかないと、ギュッと目を瞑る。  それに優しいメグ先輩なら、聞いてくれるかもしれない。  そう思ったのだが、メグ先輩は少しだけ困ったように微笑むだけだった。 「ごめんね、やめられない」 「そんな……っ。ほんとにお願いっ、なんでもするから、オメガにだけはしないで!」 「どうしてそんなにオメガは嫌なの?」 「っ、メグ先輩のそばに、ずっといたいから! "運命"には勝てないから、だから……っ」 「オメガになったらそのうち離れないきゃいけない。そう思ったの?」  理解が早くて本当に助かる。何度も頷くと、メグ先輩は「そっか」と小さく呟いた。  わかってくれたのだろうか。ホッとして、思わず気が抜けそうになる。ちょっとでも気を抜けばフェロモンにもっていかれそうなので、そういうわけにもいかないが。

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