21 / 45

(8)

「なれるよ」  なのに、メグ先輩はそれに首を振る。  俺が天性のオメガならば、素直に受け入れられたかもしれない。 けれどそんなもしも話をしたところで、俺の性はどう足掻いても「暫定ベータ」。中途半端な性が、後天性オメガが、メグ先輩のような特別な人の番になんてなれるわけがない。 「初めてハルを見た時、俺の番だって感じた。発情がアルファのものだから俺がおかしいのかと思ったけど、ハルが暫定ベータだったから確信したよ」 「メグ……先輩」 「だから三年間かけてハルをオメガにしようとした」 「そんなの、紛い物だからっ! ちゃんと、"運命"に出会って幸せになってよ……!」  メグ先輩の話を聞いて、もう頭の中がごちゃごちゃだ。  もうなにがなんだかわからなくなってきて、メグ先輩の気持ちをも否定していることにも気付けない。  メグ先輩はそれなのにも関わらず、それはそれは綺麗に微笑んだ。 「もう出会ったから、俺いますっごく幸せだよ?」 「しあ、わせ……?」 「うん。ハルがこれまでずっと俺の隣で過ごしてくれて、いっつも幸せ感じてるよ。可愛いな、愛おしいなぁって。ハル以外じゃこんな気持ちになれない」 「……ほんとに? メグ先輩、幸せ?」 「ハルがいてくれるから幸せ」  きゅっと俺を抱きしめる腕に力が入って、わずかな隙間を埋めるように密着した。  少し正気を取り戻せたのに、酷く甘いフェロモンの香りが再び脳を支配する。 「俺の番になって。ずーっと一緒にいよう?」  まるで魔法のような、極甘の誘惑。  だんだん、メグ先輩から紡がれる言葉が、俺の全てだと思えてくる。  メグ先輩が"運命"だって言ってくれてるなら、もう俺が"運命"。  メグ先輩が幸せなら、誰にも俺の席を譲る必要はない。  どろどろに甘い熱に浮かされて、もう、いいかなって。 「大好きだよ、ハル」  ――番になりたい。  愛情が伝わる、優しくて甘いキス。  ぽろりと瞳からこぼれ落ちる雫。  純粋でディープな欲望がたったひとつ、頭に浮かんだ。  乱雑に散らばった思考が全てが一掃され、ただ目の前のメグ先輩だけしか見えなくなる。  メグ先輩だけを……アルファだけを求めてしまうオメガの本能。それに呑み込まれてしまったが最後、もう止められない。 「っ、はぁ……」 「ん……いい香りだね」  メグ先輩と俺のフェロモンが深く混和する。  より濃厚で芳醇なものとなったフェロモンが、ぶわっと香り立った。  その瞬間、再び俺の身体がくたりと力を失う。オメガのフェロモンが、アルファに太刀打ちできるわけもない。アルファの発情フェロモンを浴びるのは初めてだ。まさかこんなにも強いなんて。  もう好きにしてくれと言わんばかりに、メグ先輩に熱の籠る身体を預けた。

ともだちにシェアしよう!