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「協力を求めたわけでもないのにフェロモン浴びせるとか、目的はひとつだろ」
「そんなのわかんないじゃん。もしかしたらメグ先輩、俺がアルファになりたいって気付いてたかもよ?」
「んな都合の良い話あるか。なぁ、メグ」
「そうですね」
苦笑いを浮かべるメグ先輩。現実的ではないことを言っているのは自覚している。色々すごいメグ先輩でも、さすがに心を読むのは無理だろう。
それにしても、やっぱりまーやんに隠し事をするのは難易度が高いらしい。特に隠していたわけでもないが。思い返せばこの間の検査の日、まーやんは何かと含みのある言葉が多かった。その時点でもう俺がオメガになるとわかっていたのだろうか。
敵わないなぁ、とひとり思い耽っていると、まーやんから質問が投げかけられる。
「で、発情期はどのくらいで終わったんだ?」
「えーっと、三日」
「平均ってとこだな。ゴムは?」
なんてデリケートなことを聞いてくるんだ、この人は。
信じられない思いでいっぱいになり、思わず目が据わってしまう。
「なんでそんなこと聞くわけ?」
「医者からの質問だと思ってくれ。わりと大事なことだ」
「……俺、覚えてないし。メグ先輩、パスー」
「あはは……。ゴムならつけてましたよ」
「ずっと?」
「はい」
え? でもメグ先輩、理性トんだって言ってけど……。
メグ先輩はまるで俺の疑問を見抜いているかのように、俺を見て微笑んだ。そしてまた、まーやんの方へ視線を向けた。
「番になって初めての発情期は体調を崩しやすいと聞いていましたし、ハルの場合、性が変わったばかりなのでもっと身体に響きやすいんじゃないかと思ったので」
「実話か? 理性がほぼ無い状態で身を案じるなんざ、なかなかできないことだぞ」
「最初から心配していたとはいえ、後半はほぼ無意識でしたよ。俺も発情が収まった時、ちゃんとゴムついてて安心したを覚えてますから」
「まじかよ。ならすげぇな。ハル、お前ヤバいくらい愛されてんなぁ」
まーやんも感心するほどのメグ先輩の優しさと愛情。ヤバい、ニヤけが止まらない。
メグ先輩がこんなにも自分を大切にしてくれているのだと思うと、どうしようもない嬉しさがこみ上げてくる。
「よかったな、ハル。これならこの先の一ヶ月もそこまで心配することないな」
「この先の一ヶ月?」
「あぁ。それも含めた二つ、話しておかないといけないことがある」
本題だな、とまーやんが背もたれから体を起こす。
俺もつられて姿勢を正すと、それを見ていたメグ先輩が小さく笑った。
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