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(9)
「まず一つ目。発情期に慣れてきたらゴムは外した方がいい」
そう言われ、さっきのゴムの話を思い出す。なるほど、わりと大事というだけあって、話が結びついている。
そこは納得できた。だが、今の発言には納得がいかない。普通は逆だろう。
俺の気持ちを代弁するように、メグ先輩が口を開いた。
「慣れてきたら余計、妊娠しやすくなるのでは?」
「一般的にはそうだな。だがハルは後天性オメガだ」
「それが関係あんの?」
「ああ。後天性の場合、妊娠する確率は天性の十分の一なんだよ」
「ひっく。じゃあ俺は妊娠しないってこと?」
「しないわけじゃない。ただ、できたら奇跡ってだけだ」
「だけ」ではないだろう。それは暗に、できないと言っているようなものだ。
妊娠について意識したことはあまりなかったが、できないとなると、それはそれで悲しくなる。
「ただ、メグが希少種だからな。その辺を考えたら、普通よりは確率は高くなると思うがな」
「希少種はやっぱり特別ってこと?」
「あぁ。希少種の精子は相手の卵子を誘発しやすくなってて、結びつくのが早いんだ」
「それは後天性にも効果的なんですか?」
「もちろんだ。だから、ハルとメグなら数を重ねていればそのうち起こると思うぞ、奇跡が」
自信満々な笑みで言い切られた。まーやんが嘘をつくような人ではないとわかっているので、俺も頷いておく。メグ先輩もそっと微笑んだ。
「つまり、いつでも子どもを迎えられる準備しておけってことだ。慎重になって子どもができるタイミングを見計らってたら、いつの間にか歳とってるからな。早くても二、三年はかかるだろうし」
「そんなにかかるんだ……」
じゃあ、もしもメグ先輩が三十歳になる頃に子どもがほしいとなれば、二十七歳から子作りを始めなければいけないということか。
なんとかく理解ができた。
「妊娠できた事例は少ないが、できたヤツらの平均はだいたい五年だぞ?」
「それを思ったらまだマシかぁ」
「そういうことだな。なんせゴムはつけないほうがいい。だが、ちゃんと後処理しねぇとただ体調が悪くなるだけだから、そこんとこ、ぬかりなくな」
「もちろんです」
「まぁ、ハルの性が定着して、安定した発情期に慣れてからの話だから、そこまで焦る必要はないぞ」
「はーい」
たしかに番ってから間もないし、子どものことを考えるには些か早すぎる。
この先は長いのだから、そう早足にならなくてもいいはずだ。
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