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 まーやんは「こんなもんかな」と呟いた。そろそろ次の話へ移るようだ。  今の話を忘れないように心に留めておいて、耳を傾ける。 「じゃあ二つ目だ。ハルの性が定着するまで、メグはなるべくハルのそばにいてやってくれ」 「ハルのそばから離れるつもりはありませんが……?」  メグ先輩が不思議そうな顔をしている。その内容が内容なだけに素直に嬉しい。  だが、まーやんの言葉の意味がイマイチよくわかっていないので、疑問は拭えない。話の続きを待つことにした。 「そうだろうな。だが、平日はお互い学校やら仕事やらで一緒にいられないだろ?」 「たしかにそうですね」 「だからメグ、平日は必ずハルの家に行って様子を見てやってくれ。できれば一ヶ月ほど」 「え、あの、ちょっと待って」  なぜメグ先輩の負担になるようなことをお願いするのだろう。  思わず話を遮ってしまった。まーやんの視線がメグ先輩からこちらへ向き、俺も質問を投げかける。 「毎日会わないといけないくらいヤバいの? 暴走でもするわけ?」 「暴走はしない。ただ、ハルの心の問題だ」 「俺の?」 「あぁ。性が定着するってことは要するに身体を作り替えるってことだ。それはわかるな?」 「うん」 「だから、身体の免疫力が低下して体調を崩しやすくなる。それに、身体が未完成のあいだは情緒不安定になりやすい。些細なことで怒ったり、眠れないほどの不安を感じたりな。それに、過剰なまでにストレスを感じやすくなる」  ……それは俺の問題であって、メグ先輩には関係ないんじゃないの?  そう思ったが、まーやんが真剣な顔をしているのでなにも言わなかった。とりあえず、最後まで聞こう。 「これらが積み重なっていけば、行き着く先は自傷行為だ。ストレスや不安から自虐的になるくせして、一人で抱え込もうとする。ハルなんかは特にそうだ」 「そんなんじゃ、ないし……」 「何年ハルを見てきてると思ってるんだ」  口では否定をしたが、実際当たっているような気がする。  一人で抱え込みがちなのは自覚しているから、強く反論できない。  どんどん気分が落ち込んでいく。 「今の話を聞いてわかった通り、ハルは心が不安定な時期にある。そこを支えてやれるのは番――メグだけだ」 「はい。もちろんです」 「そばにいるだけでいい。ハルの気持ちや感情を受け止め、優しく包んでやるだけで、ハルは安らぐ。楽になれる。これはハルとメグが寄り添わないと乗り越えられないことなんだ。ハルを頼んだぞ」 「――はい」  メグ先輩の声色、まーやんの瞳、どれもが真剣だった。  この話がどれだけ大切なことなのかがよくわかる。 「ハルも、余計なことは考えるな。メグを信じて、ちゃんと素直になるんだぞ」 「……うん」  まーやんの言葉に頷いて、俺はメグ先輩を見た。  メグ先輩の温かい手でそっと頭を撫でられる。わかっているよ、とでも言うかのように。

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