39 / 45
(10)
まーやんは「こんなもんかな」と呟いた。そろそろ次の話へ移るようだ。
今の話を忘れないように心に留めておいて、耳を傾ける。
「じゃあ二つ目だ。ハルの性が定着するまで、メグはなるべくハルのそばにいてやってくれ」
「ハルのそばから離れるつもりはありませんが……?」
メグ先輩が不思議そうな顔をしている。その内容が内容なだけに素直に嬉しい。
だが、まーやんの言葉の意味がイマイチよくわかっていないので、疑問は拭えない。話の続きを待つことにした。
「そうだろうな。だが、平日はお互い学校やら仕事やらで一緒にいられないだろ?」
「たしかにそうですね」
「だからメグ、平日は必ずハルの家に行って様子を見てやってくれ。できれば一ヶ月ほど」
「え、あの、ちょっと待って」
なぜメグ先輩の負担になるようなことをお願いするのだろう。
思わず話を遮ってしまった。まーやんの視線がメグ先輩からこちらへ向き、俺も質問を投げかける。
「毎日会わないといけないくらいヤバいの? 暴走でもするわけ?」
「暴走はしない。ただ、ハルの心の問題だ」
「俺の?」
「あぁ。性が定着するってことは要するに身体を作り替えるってことだ。それはわかるな?」
「うん」
「だから、身体の免疫力が低下して体調を崩しやすくなる。それに、身体が未完成のあいだは情緒不安定になりやすい。些細なことで怒ったり、眠れないほどの不安を感じたりな。それに、過剰なまでにストレスを感じやすくなる」
……それは俺の問題であって、メグ先輩には関係ないんじゃないの?
そう思ったが、まーやんが真剣な顔をしているのでなにも言わなかった。とりあえず、最後まで聞こう。
「これらが積み重なっていけば、行き着く先は自傷行為だ。ストレスや不安から自虐的になるくせして、一人で抱え込もうとする。ハルなんかは特にそうだ」
「そんなんじゃ、ないし……」
「何年ハルを見てきてると思ってるんだ」
口では否定をしたが、実際当たっているような気がする。
一人で抱え込みがちなのは自覚しているから、強く反論できない。
どんどん気分が落ち込んでいく。
「今の話を聞いてわかった通り、ハルは心が不安定な時期にある。そこを支えてやれるのは番――メグだけだ」
「はい。もちろんです」
「そばにいるだけでいい。ハルの気持ちや感情を受け止め、優しく包んでやるだけで、ハルは安らぐ。楽になれる。これはハルとメグが寄り添わないと乗り越えられないことなんだ。ハルを頼んだぞ」
「――はい」
メグ先輩の声色、まーやんの瞳、どれもが真剣だった。
この話がどれだけ大切なことなのかがよくわかる。
「ハルも、余計なことは考えるな。メグを信じて、ちゃんと素直になるんだぞ」
「……うん」
まーやんの言葉に頷いて、俺はメグ先輩を見た。
メグ先輩の温かい手でそっと頭を撫でられる。わかっているよ、とでも言うかのように。
ともだちにシェアしよう!