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車に乗り込んですぐのこと。
楽しくおしゃべり、な気分でなかった俺に、メグ先輩は「寝てていいよ」と言ってくれたのだ。
特に眠たいと言ったわけでもないのに、どうしてメグ先輩はそんなことを言うのだろう。そう疑問を抱いたものの、寝れば喋らなくてもいいと思った俺は、その言葉に甘えさせてもらったのだ。
実際、考えや不安が駆け巡りすぎて眠れもしなかったのだが。メグ先輩に背を向けて、寝たふりをしていた。
もしやとは思っていたが、やはりあれはメグ先輩の気遣いだろう。
本当にメグ先輩には頭が上がらない。きゅっと固く結んだ心が、ゆるりと解けていく。
「少しずつで構わないから、ハルの思ってることを言ってみて」
「……メグ先輩、ごめんなさい」
「うん」
俺がぽつりと謝ると、メグ先輩は優しい声色で頷いた。
そして、安心させるかのように、ゆっくりと優しく俺の背中を叩いてくれる。
「ごめん……。本当に、ごめんなさい」
「……」
「俺みたいな面倒なヤツが番なんて、メグ先輩も後悔してるよね?」
「後悔、ね」
「後天性なせいで、メグ先輩の子どもも満足に産めない。性が定着するまで時間がかかる上に鬱陶しいだけになる」
言葉にしてみると、なんだか泣きそうになった。
メグ先輩は変わらず、 俺の背中を叩いてくれている。その手の温もりが俺の涙腺を緩くしているとは知らずに。
「メグ先輩、毎日俺のこと見に来なくていいよ。俺、痛いの嫌いだから自傷行為なんてしないし」
「俺は必要ない?」
「そうじゃなくてっ。メグ先輩の迷惑にも、負担にもなりたくないんだよ……」
「どうして?」
「……嫌われなく、ない」
嫌われるなんて、想像しただけでも涙が出そうになる。
メグ先輩はなにも言っていないのに、どんどん思い込みが加速し、独りよがりな不安が募りに募っていく。
ついに溢れ出した涙が、メグ先輩の服に染みを作る。惨めでも格好悪くても、なんでもいいからメグ先輩に縋り付きたかった。
「お願いだから、俺のこと……、嫌わないで……っ」
「ハル」
「俺もう、メグ先輩がいなきゃ、生きられないんだって……!」
好きで好きで仕方なくて、もうどうしようもないのだ。優しさも、愛情も、温もりも、メグ先輩からもらったもの全てが愛おしい。
一緒にいられる時間の中で見つけた「幸せ」は、それほどまでにメグ先輩の存在を色濃く刻み付けた。
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