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どこにもいかないで、と無意識のうちにメグ先輩の服をぎゅっと掴んだ。
喋ることもままならないくらいとめどなく涙がこぼれ、 嗚咽をもらすことしかできない。
「これで全部? 言いたいことはまだある?」
変わらない穏やかな声色で問いかけられ、首を横に振った。
そんな俺を見て、メグ先輩はそっか、とこぼす。
「じゃあ俺の話を聞いてくれる?」
「……ん」
頷いて、メグ先輩の話を促す。
まだ全身の力は抜けてくれない。むしろ、メグ先輩の話を怖がるかのように力が加わる一方だ。
メグ先輩はそれに気付いているのか、片手を移動させて俺の頭を優しくなでる。
「まず大前提として、俺は子どもがほしくてハルと番になったわけじゃないよ。だから、子どもについては楽に考えよう」
「できなくても、いい?」
「うん。俺はハルがいればそれでいいよ。ゆっくりのんびり、奇跡を待とう」
「待って……くれるの?」
「もちろん。ハルと過ごす時間は全部、大切だから」
「メグ先輩……」
耳元で聞こえる柔らかな声は透き通っていて、それが本心からきている言葉なのだということがわかる。
メグ先輩が気遣いから話しているわけではないとわかると、次第に身体から余計な力が抜けていく。安心させるかのように俺の頭をなでるメグ先輩の手の温もりが、ようやく感じられた。
「ねぇハル。俺は毎日会いたいと思ってるけど、それはダメ?」
「ダメなわけないじゃん、俺だって会いたいし……。でも、ここから俺の家は遠いから」
「遠くなかったらいいの?」
「……メグ先輩がいいなら」
正直な話、俺を見に来てもいいことなんて何ひとつないだろう。
メグ先輩は平日、どこかの企業に勤めていると聞いた。仕事をこなして疲れた身体で様子を見に来てもらうのは心苦しい。しかも電車代だってかかる。
勝手かもしれないが、俺はメグ先輩に負担だと一瞬でも思われたくない。思われるくらいならば、一人で自分の感情と戦う方がよっぽどマシだ。
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